岡本綺堂 『半七捕物帳』 「お俊だけに義太夫の師匠の隣りに住んでいる…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「お俊さんって義太夫の師匠の隣に住んでんの? そうすると竪川じゃなくて堀川だな」
「あ、空家だ」
「隣で聞いてみろ」
「親分。お俊さんの家は昨日急に取り壊されて、どこかへ引っ越してしまったそうです。知らない人がやってきて、道具をどんどん片付けて、近所にも挨拶せずに立ち去ったので、近所でも不思議に思ってるみたいですよ。ちょっと変ですね」
「引っ越しの時に、お俊さんは顔を出さなかったのか?」
「突然バタバタと片付けに来たので、近所の人たちもよく分かってないみたいですが、どうも俊ちゃんらしき人はいなかったらしいです。ここで例の首を見た人がいないか念のため聞いてみると、その話を聞いて5、6人が駆けつけたけど、気味悪いので誰もはっきりは見ずに帰ってしまったみたいですよ。とにかく薄化粧だと聞いてたんで、お俊さんとは違うみたいですね」
「近所には挨拶しなくても、家主には断っただろう。家主はどこだ?」
「2丁目の角屋っていう酒屋らしいので、そこに行って聞いてみましょう」
「お俊さんの家では2、3日前から引っ越しをするって話がありました。それで、昨日の朝、知らない人が来て、これから引っ越すって言って、家賃とかお酒代とかを全部綺麗に払っていったので、こっちも特に詮索はしませんでした。引っ越し先は浅草の駒形だって言ってました」
「お俊さんは柳橋の芸者だったって聞くけど……」
「その保証人は誰ですか?」
「お俊さんの旦那は深川の柘榴伊勢屋だそうで、保証人はその番頭の金兵衛って人でした」
「お俊さんってどんな女でしたか?」
「商売人が元だったんで、誰にでも愛想を振り撒いて、近所の評判も悪くなかったみたいです。ウチの店にも時々寄って話したりしてましたが、ひどくネズミが嫌いな人で、あの家には悪いネズミが出て困るなぁとか言ってました」

原文 (会話文抽出)

「お俊だけに義太夫の師匠の隣りに住んでいるのか。それじゃあ竪川でなくって、堀川だ」
「やあ、空店だ」
「隣りで訊いてみろ」
「親分。お俊の家はきのう急に世帯を畳んで、どこへか引っ越してしまったそうです。知らねえ人が来て、諸道具をどしどし片付けて、近所へ挨拶もしねえで立ち去ったので、近所でも不思議に思っていると云うことです。ちっと変ですね」
「引っ越しの時に、お俊は顔を見せねえのか」
「だしぬけにばたばた片付けに来たので、近所隣りでもよく判らねえのですが、どうもお俊の姿は見えなかったらしいと云うことです。ここらで例の首を見た者はないかと、念のために訊いてみると、その噂を聞いて五、六人駈け着けたが、気味が悪いので誰もはっきりとは見とどけずに帰って来た。なにしろ薄あばたがあると云うのじゃあ、お俊とは違っていると云うのです」
「近所へ挨拶はしねえでも、家主には断わって行ったろう。家主はどこだ」
「二丁目の角屋という酒屋だそうですから、そこへ行って訊きましょう」
「お俊さんの家では二、三日前から引っ越すという話はありました。そこで、きのうの朝、知らない男の人が来て、これから引っ越すとことわって、家賃や酒の代もみんな綺麗に払って行きましたから、わたしの方でも別に詮議もしませんでした。引っ越し先は浅草の駒形だということでした」
「お俊は柳ばしの芸者だったと云うが……」
「その店請人は誰ですね」
「お俊さんの旦那は深川の柘榴伊勢屋だそうで、店請はその番頭の金兵衛という人でした」
「お俊さんというのはどんな女でした」
「商売人揚がりだけに、誰にも愛嬌をふりまいて、近所の評判も悪くなかったようです。わたし共の店へ寄って、時々に話して行くこともありましたが、ひどく鼠が嫌いな人で、あの家には悪い鼠が出て困るなぞと云っていました」


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