GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「バカ。とんでもないことすんなよ」
「そんなに邪魔なら、どこでも捨ててしまえ。お前みたいなのがいると困る。そんなものはこっちに寄こせ」
「これからの道行をいちいち講釈してたら、退屈だと思うので、そろそろ種明かしをしましょうか」
「今の皆さんは賢いから、ここまで説明すればもうほぼお分かりでしょうけど、弁天堂で死んでいたのは髪結いのお国さんで、善昌は生きていたんです」
「善昌さんが殺したんですか?」
「そうです。善昌っていう尼さんはひどい人で、本人は何も白状しませんでしたが、以前からいろいろ悪いことをしてたみたいなんです。もちろん、お国っていう女もろくなもんじゃないんで、こうなるのも自業自得です。さっき話したように、弁天堂のお賽銭や仏具を盗もうとして、お菓子や餅の毒にあたって死んだ若い男がいましたが、あれは仏の罰でも何でもないんです。善昌とお国が共謀して殺したんです。誰もそれに気づかなくて、かわいそうなその男は身元不明の捨て子扱いされて、近くの寺に投げ込まれてしまいましたが、実は善昌の昔の亭主の弟だったんです。善昌は越中富山の出身で、早くに亭主に先立たれて江戸に出てきて、本所で托鉢の尼さんをしてるうちに、どこからか弁天様を見つけて来て、めちゃくちゃなことを吹きまくってたら、それがうまくいって、徐々に信者さんが増えていきました。そこに、ひょっこり現れたのが昔の亭主の弟の与次郎って、堀川の猿回しみたい変な名前の男で、こいつがどうして善昌の居場所を知ったのか、突然訪ねてきて、なんとか面倒見てくれって言うんです。仕方なく少しだけ金を渡して追い返したんですが、奴が簡単には引き下がらず、何とか理由をつけてまとわりついてくる。断ると何か嫌がらせをされます。こんな奴がしょっちゅう入り浸られては、他の信者の評判が悪いし、もう一つは善昌にも何か後ろ暗いことがあって……これは本人がどうしても白状せず、何しろ遠い国のことでよくわかりませんが、善昌は昔の亭主を殺して江戸に逃げたのを、弟の与次郎がうすうす知っていて、それをネタに善昌をゆすってたんじゃないかとも考えられます。……それで、この与次郎を生かしておいてはマズいと思ったので、普段から仲の良いお国と相談して、与次郎を殺すことにしたんです。善昌の話では、自分は殺す気はなかったけど、お国が面倒を省くために殺してしまおうと勧めたんだそうです。どっちにしろ与次郎を亡き者にすることにしましたが、もちろん、むやみに殺せるわけではありません。それで、善昌は与次郎にこんな相談を持ちかけました。私もできる限り世話はしたいけど、今の身分じゃ思うようにはいかない。だから、あんたの方でこの弁天様をもっと流行らせてくれないか。信者が増えればお賽銭も増える。寄付金も増える。結果的にあんたにも利益になるよ。だから、そうなるように一芝居打ってくれないかってことになったんです。その芝居というのは、与次郎が泥棒のふりをして弁天堂に忍び込んで、お賽銭や仏具を盗もうとすると、体が動かなくなるんです。そこにお国が来て騒ぐ。近所の人も集まってきます。いいタイミングで善昌が帰ってきて、これも弁天様の罰だと言って何かの祈祷をすると、与次郎の体が元に戻る。他の人が縛って突き出そうとしても、善昌があっせんして許してあげる。こうなれば、みんなの信心はますます強まって、弁天様の霊験あらたかな評判がさらに高まる。信者が急増する。収入も増える。この相談を受けて、与次郎っていう奴は馬鹿なのか図々しいのか、面白いと言って、結局はその芝居を本当にやってみることになりました。それで段取り通りに進んで、お賽銭を懐に入れます。金目の仏具を背負って逃げ出そうとしたところで、留守のはずの善昌が奥から出てきて、体が動かなくなるだけではダメだ、このお菓子と餅を食べて苦しむ芝居をしてくれと言って、仏壇にお供えしてあるお菓子と餅を与次郎の口に詰め込んだので、何も考えずにパクパク食べたら、なんと本物の苦しみ方で、口や鼻から血を吐き出します。お国も奥で様子を見てて、与次郎がもう瀕死状態になったのを見計らって、善昌は裏口からそっと出ていきます。お国は表口から回り込んで、初めてそれを発見したかのように騒ぎます。与次郎はまんまと騙されて、悔しがったんでしょうけど、もう話す気力もなく、餅と菓子を指さすだけで、苦しみ死んでしまったのです。遠い土地の者だし、下谷あたりのちょっとした宿に転がってるホームレスみたいな人間なので、死んでも誰も詮議する人はいませんでした。仕方がないこととはいえ、かわいそうな最期でした。災いを転じて福となすというのはこういうことでしょう。善昌の方はこの芝居が大成功し、邪魔な与次郎を殺した上、計画通りに信者さんがさらに増えて、見事に弁天堂を立て直すことができました。与次郎の代わりにお国という女ができましたが、これは女だし、自分らも与次郎毒殺の共犯なので、そんな乱暴なことは言いませんでした。それで2人はうまくやってたんですけど、また新たな問題が発生しました」
原文 (会話文抽出)
「ここに新ぼとけがある。ここらへ供えて置きましょうか」
「馬鹿。飛んでもねえことをするな」
「それほど邪魔になるなら、どこへでも打っちゃってしまえ。手前のようなどじはねえ。そんなものはこっちへよこせ」
「これからの道行を下手に長々と講釈していると、却って御退屈でしょうから、もうここらで種明かしをしましょうよ」
「今の人はみんな頭がいいから、ここまでお話をすれば、もう大抵お判りになったでしょうが、弁天堂で死んでいたのはやっぱり髪結のお国で、善昌は生きていたんです」
「善昌が殺したんですか」
「そうです。善昌という尼はひどい奴で、当人は一々白状しませんでしたけれど、前にもいろいろの悪いことをしていたらしいんです。勿論、お国という女も無事には済まない身の上で、こうなるのも心柄です。初めにお話し申した通り、弁天堂のお賽銭や仏具をぬすみ出そうとして菓子や餅の毒にあたって死んだ若い男がある。あれは仏の罰でも何でもない、善昌とお国が共謀して殺したんです。誰もそれに気がつかないで、可哀そうにその男は身許不詳の明巣ねらいにされて、近所の寺へ投げ込まれてしまったんですが、実は善昌のむかしの亭主の弟だそうです。善昌は越中富山の生まれで、早く亭主に死に別れて江戸へ出て来て、本所で托鉢の比丘尼をしているうちに、どこからか弁天様を見つけ出して来て、いい加減の出鱈目を吹聴すると、その山がうまくあたって、だんだんにお有難連の信者がふえて来た。ところへ、ひょっくりと出て来たのが先の亭主の弟で与次郎という、堀川の猿廻し見たような名前の男で、これがどうして善昌の居どこを知ったのか、だしぬけに訪ねて来て何とか世話をしてくれという。よんどころなしに幾らか恵んで追っ払ったのですが、こいつもおとなしくない奴とみえて、なんとか因縁をつけて無心に来る。断われば何か忌がらせを云う。こんな者が繁々入り込んでは、ほかの信者の手前もあり、もう一つには善昌の方にも何かうしろ暗いことがあって……これは当人がどうしても白状せず、なにぶん遠い国のことでよく判りませんでしたが、善昌は先の亭主を殺して江戸へ逃げて来たのを、弟の与次郎が薄々知っていて、それを種にして善昌を強請っていたのではないかとも思われます。……そんなわけで、この与次郎を生かして置いては為にならないと思ったので、ふだんから仲のいいお国と相談して、与次郎を殺す段取りになったんです。善昌の申し立てによると、自分は殺すほどの気はなかったが、お国がいっそ後腹の病めないように殺してしまえと勧めたのだということです。いずれにしても与次郎を亡き者にすることに決めたが、勿論、むやみに殺すことは出来ない。そこで、善昌は与次郎に向ってこういう相談を持ちかけたんです。 わたしも出来るだけはお前の世話をしてあげたいが、今の身分ではなかなか思うようには行かない。就いてはお前の方でこの弁天様をもっと流行らせてくれまいか。信者がふえれば賽銭もふえる。寄進もふえる。したがってお前の為にもなるというわけであるから、その積りで一つ芝居を打ってくれということになったのです。その芝居というのは、与次郎が泥坊の振りをして弁天堂へ忍び込んで、賽銭や仏具をぬすみ出そうとすると、からだが竦んで動かれなくなる。そこへお国が来て騒ぎ立てる。近所の者も集まって来る。いい頃を見計らって善昌が帰って来て、これも弁天様の御罰だと云って何かの御祈祷をすると、与次郎のからだが元の通りになる。ほかの者が縛って突き出そうと云っても善昌がなだめて免してやる。さあ、こうなれば諸人の信仰は愈々増して、弁天様の霊験あらたかであるという評判がいよいよ高くなる。信者が俄かにふえる。収入も多くなる。 この相談を持ちかけられて、与次郎という奴は馬鹿か、ずうずうしいのか、それは面白いと受け合って、とうとうその芝居を実地にやってみることになったんです。そこで筋書の通りに運んで行って、賽銭を袂に入れる。金目になりそうな仏具を背負い出すという段になると、留守のはずの善昌が奥から出て来て、からだが竦むというだけではいけない、これを食って苦しむ真似をしてくれと云って、仏前に供えてある菓子と餅とをとって与次郎の口へ押し込んだので、なに心なくむしゃむしゃ食うと、さあ大変、与次郎はほんとうに苦しみ出して、口や鼻から血を吐くという騒ぎ。お国も奥で様子を窺っていて、与次郎がもう虫の息になった頃をみすまして、善昌は裏からそっと出て行く。お国は表口へ廻って来て、今初めてそれを見つけたように騒ぎ立てる。与次郎は一杯食わされて、さぞ口惜しかったでしょうが、もう口を利く元気もない。餅と菓子とを指さしただけで、苦しみ死に死んでしまったのです。遠国の者ではあり、下谷あたりの木賃宿にころがっている宿無し同様の人間ですから、死ねば死に損で誰も詮議する者もない。心柄とは云いながら、ずいぶん可哀そうな終りでした。 禍いを転じて福となすとかいうのは此の事でしょう。善昌の方ではこの芝居が大あたりで、邪魔な与次郎を殺めてしまった上、案の通りに信者はますます殖えてくる。万事がとんとん拍子に行って、弁天堂を立派に再建するほどの景気になったんですが、与次郎の代りにお国というものが出来て、これが時々無心に来る。しかしこれは女のことでもあり、自分も与次郎毒殺の一味徒党であるから、そんなに暴っぽいことは云わない。それで二人は先ず仲よく附き合っていたんですが、さらに一つの捫著が出来したんです」