岡本綺堂 『半七捕物帳』 「お師匠さん、ゆうべは変なことがあったんで…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「師匠、昨日マジヤバかったんですよ」
「夜9時頃かな?」
「店の前で涼んでたら、あたしと同い年くらいの浴衣の女が家の前立ってんの。しかも、家の中ずっと見てて怪しいやつだなーって。そしたら店の兄ちゃんも気づいて『何か御用ですか?』って聞いたら、女は何も言わずに消えちゃったんですよ。そっからしばらくして、知らない駕籠屋が現れて『賃金くれ』って言うから『間違いじゃない?』って聞いたら、『四谷見附から娘さん乗せてきて、角で降りて津の国屋で金受け取ってくれって言われた』って言うんですよ」
「で、どうしたの?」
「こっちじゃ全く覚えがないって」
「店員も出てきて、女の特徴聞いたら、17、8歳で撫子の柄の浴衣だって言うから、今覗いてた女と同じじゃん。で、適当なこと言って賃金を踏み倒したんだろうって話してたら、親父が出てきて『ウソでも津の国屋の名前出されたのじゃ困る。駕籠屋に損させちゃダメ』って言って、結局は賃金払っちゃったんですよ。親父はそれで終わりだったけど、店員は『最近のガキは油断ならん。こんな若いのに賃金を踏み倒すなんて、このままじゃ騙したり美人局やったりするかもよ』って…」
「そうだよな」

原文 (会話文抽出)

「お師匠さん、ゆうべは変なことがあったんですよ」
「かれこれ五ツ半(午後九時)頃でしたろう」
「あたしが店の前の縁台に腰をかけて涼んでいると、白地の浴衣を着た……丁度あたしと同い年くらいの娘が家の前に立って、なんだか仔細ありそうに家の中をいつまでも覗いているんです。どうもおかしな人だと思っていると、店の長太郎も気がついて、なにか御用ですかと声をかけると、その娘は黙ってすうと行ってしまったんです。それから少し経つと、知らない駕籠屋が来て駕籠賃をくれと云いますから、それは間違いだろう、ここの家で駕籠なんかに乗った者はないと云うと、いいえ、四谷見附のそばから娘さんを乗せて来ました。その娘さんは町内の角で降りて、駕籠賃は津の国屋へ行って貰ってくれと云ったから、それでここへ受け取りに来たんだと云って、どうしても肯かないんです」
「それから、どうして……」
「それでも、こっちじゃ全く覚えがないんですもの」
「番頭も帳場から出て来て、一体その娘はどんな女だと訊くと、年ごろは十七八で撫子の模様の浴衣を着ていたと云うんです。してみると、たった今ここの店を覗いていた娘に相違ない。そんないい加減なことを云って、駕籠賃を踏み倒して逃げたんだろうと云っていると、奥からお父っさんが出て来て、たとい嘘にもしろ、津の国屋の暖簾を指されたのがこっち不祥だ。駕籠屋さんに損をさせては気の毒だと云って、むこうの云う通りに駕籠賃を払ってやったら、駕籠屋も喜んで帰りました。お父っさんはそれぎりで奥へはいってしまって、別になんにも云いませんでしたけれど、あとで店の者たちは、ほんとうに今どきの娘は油断がならない。あんな生若い癖に駕籠賃を踏み倒したりなんかして、あれがだんだん増長すると騙りや美人局でもやり兼ねないと……」
「そりゃ全くですわね」


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