岡本綺堂 『半七捕物帳』 「ここらにゃあ顔役とか親分とかいうものはい…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「この辺に組長とか親分さんみたいな人はいないのか?」
「この辺じゃ大した顔の人はいませんが、原宿の弥兵衛ってのがいます」
「子分は5、6人くらいですが、この辺ではそこそこ威張ってるみたいです」
「浅川の芝居に出てる岩蔵は、弥兵衛の子分かい?」
「岩蔵さんは役者ですから、子分ってわけでもないでしょうけど、あの人もちょっと悪い遊びをしてるんで、弥兵衛さんのところに出入りしてるみたいです」
「薬罐平ってのは違うのか?」
「違います。薬罐平さんは一昨年亡くなりました。あの人は町内の鳶の頭で、本名は平五郎、頭が禿げてたんで薬罐平ってあだ名がついたんですけど、あの人は本当に良い人で、町内のためにもよく働いてくれました。原宿の弥兵衛は別人で、これは薬罐平さんとは違います。それに、親分よりも子分の角兵衛の方が威張ってるんで……。本名は角蔵とか角次郎とかでしょうけど、この辺ではみんな角兵衛って呼んでます。その角兵衛さんがあんまり評判の良い人じゃ……」
「どうだ、分かったか?」
「分かりました」
「この近所に外科医はいないので、どんどん探して宮益坂まで行きました。岡部向斎って医者で、何か口止めされてたみたいで、最初は知らんぷりしてましたが、こっちが警察風の匂わせたんで、とうとう正直に言いました。どこで斬られたのか知りませんが、昨日の午後4時過ぎに、原宿の弥兵衛の子分の角兵衛が怪我人をかつぎ込んできたそうです。怪我人は弥兵衛の子分の角兵衛で、左腕を斬り落とされてたそうです。多分喧嘩でもしたんでしょうけど、まあ死ぬようなことはないでしょうって言ってました」

原文 (会話文抽出)

「ここらにゃあ顔役とか親分とかいうものはいねえかね」
「ここらのことですから大していい顔の人もいませんが、原宿の弥兵衛という人があります」
「子分といったところで五、六人ですが、ここらでは相当に幅を利かせているようです」
「浅川の芝居に出ている岩蔵は、弥兵衛の子分かえ」
「岩蔵さんは役者ですから、子分というわけでもないでしょうが、あの人もちっと悪い道楽があるので、弥兵衛さんのところへも出這入りをしているようです」
「やかん平というのは違うのかえ」
「違います。やかん平さんは一昨年なくなりました。あの人は町内の鳶頭で、本名は平五郎、あたまが禿げているので薬罐平という綽名を付けられたのですが、あの人はまことに良い人で、町内の為にもよく働いてくれました。原宿の弥兵衛は別な人で、これは薬罐平さんのようには行きません。それに、親分よりも子分の角兵衛というのが幅を利かして……。本名は角蔵とか角次郎とかいうのでしょうが、ここらではみんなが角兵衛と云っています。その角兵衛さんがあんまり評判のよくない人で……」
「どうだ、判ったか」
「わかりました」
「この近所に外科医はねえので、だんだん探して宮益坂まで行きました。岡部向斎という医者で、何か口留めされていると見えて、最初はシラを切っていましたが、こっちが御用の風を匂わせたので、とうとう正直に云いました。どこで斬られたのか知らねえが、ゆうべの四ツ過ぎに、原宿の弥兵衛の子分が怪我人をかつぎ込んで来た。怪我人は弥兵衛の一の子分の角兵衛という奴で、左の腕を斬り落とされていたそうです。多分喧嘩でもしたのだろうが、まあ死ぬような事はあるまいと云っていました」


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