岡本綺堂 『半七捕物帳』 「して見ると、あの飴屋はほんとうの商人じゃ…

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青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「となると、あの飴屋はただの商人じゃねえってことか。やっぱり胡散臭い奴だな」
「お前があの若い役者もずっと睨んでたけど、あれにも何か事情があるのか?」
「ふーん、あいつもしゃらくせえ奴だな」
「あの拝み方が気に入らねえ。芸人のことだから、不動明王を信じようが、仁王様を拝もうが、別に不思議じゃねえようなもんだけど、普通の拝み方じゃねえ。あいつは真剣に何か祈ってるんだ」
「そりゃ役者なんだから、体の動きが自然と芸っぽく、真剣に見えるんだろう」
「いや、そうじゃねえ。舞台の芸とは違うんだ。あいつは本気で一生懸命祈ってる。あいつは浅川の芝居の役者だって言うけど、どうも違うらしい。さっき見た小三の芝居にあんな奴出てた。まず、俺が腑に落ちねえのは、小三の芝居は女役者だけだ。その一座に男が混じってるなんてありえねえ。宮地の芝居だから、大目に見てるのかもしれねえけど、男と女が入り混じった芝居はご法度だ。多分、虎の役やる奴がいなくて、内緒で男芝居の役者を借りてきたんだろうけど、その役者が必死になって仁王様を拝んでる……。それがどうも理解できねえ。何か事情がありそうだ」
「じゃ、俺はどーすりゃいいんだ?」
「そうだな」
「まあ仕方ねえか。お前はここら辺をもう少しウロウロして、何か手がかりを見つけろ。常磐津の師匠と雇い婆、あいつらも怪しいから、出入りには気をつけろ」

原文 (会話文抽出)

「して見ると、あの飴屋はほんとうの商人じゃあねえ。やっぱり喰わせ者ですよ」
「お前さんはあの若い役者もしきりに睨んでいなすったが、あれにも何か仔細がありますかえ」
「むむ、あいつも唯者じゃあねえな」
「あいつの拝み方が気に入らねえ。そりゃあ芸人のことだから、不動さまを信心しようと、仁王さまを拝もうと、それに不思議はねえようなものだが、唯ひと通りの拝み方じゃあねえ。あいつは真剣に何事か祈っているのだ」
「そりゃあ役者だから、自然にからだの格好が付いて、真剣らしく見えるのでしょう」
「いや、そうでねえ。舞台の芸とは違っている。あいつは本気で一生懸命に祈っているのだ。あいつは浅川の芝居の役者だというが、どうもそうで無いらしい。さっき見た小三の芝居にあんな奴が出ていた。第一、おれの腑に落ちねえのは、小三の芝居は女役者だ。その一座に男がまじっているという法はねえ。宮地の芝居だから、大目に見ているのかも知れねえが、男と女と入りまじりの芝居は御法度だ。恐らく虎になる役者に困って、男芝居の役者を内証で借りて来たのだろうと思うが、その役者が眼の色を変えて仁王さまを拝んでいる……。それがどうも判らねえ。なにか仔細がありそうだ」
「そこで、わっしはどうしましょう」
「そうだな」
「まあ仕方がねえ。おめえはもう少しここらを流しあるいて、何かの手がかりを見つけてくれ。常磐津の師匠と雇い婆、あいつらもなんだか胡散だから、出這入りに気をつけろ」


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