岡本綺堂 『半七捕物帳』 「いや、よく判りました。わたしも大方そうだ…

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青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「はい、よくわかりました。私もだいたいそうだろうと思ってました」
「それで、もう一つお伺いしたいんですが、最近ここにこの絵馬の写生に来てる人なんか見かけませんでしたか?」
「なるほど、そういえば去年の10月か11月頃のことでした」
「40前後の町人風の男と20、30代の女性が2連で参拝に来て、この絵馬の下にしばらく立って眺めてましたが、女性は筆記用具を取り出して何か写してるようでした。その後にまた来ましたが、今度は女性1人で、やはり一生懸命写してるように見えました」
「その女性は絵描きでしょうね」
「むむ。どうせ偽物を作るんだから、絵描きも仲間に入れなきゃならない。男性は絵馬屋の主人で、女性は出入りの絵描きだろう。これから帰ったら、その女性を探してみろ」
「かしこまりました。女性絵描きで、年格好も顔もわかってるんだから、すぐにわかるでしょう。それで、大津屋はどうします?もう少し放置しますか?」
「一度は捕まえなきゃいけない奴らしいが、まあ、もう少し見逃してやれ。本当に俺の鑑定通り、ここの絵馬が無事でいられれば、大津屋の主人は丸多をだまして、偽物を押し付けたはずだ。それを知らずに偽物を大事に抱えて、丸多の主人はどこをさまよってるんだろう?考えてみると気の毒でもある。なんとか早くその居場所を探してあげたいもんだな」
「帰りに堀ノ内にも寄りますか?」
「ついでとは言えないけど、ここらへんまで滅多に来られない。昼飯を食べてお参りしてから行くよ」
「ところで、途中で思いついたんだけど、お城坊主の息子……万次郎っていう奴は、大津屋の主人とグルじゃないかな?丸多が絵馬に夢中になってるのに乗じて、大津屋がまず偽物で適当に儲けた上に、今度は万次郎が入れ替わって、謀叛人の絵馬を口実に、丸多を脅して何千両という大金を取ろうとたくらんだんじゃないかと思うが……。もしそうなら、かなり悪賢い奴らだ。でも、お城坊主の息子にはろくでもない奴が多いな。油断するとだまされるから、注意してかからないとダメだ」
「まあ、そういうわけだから、絵馬の件は心配するほどのことはありません。だまされた人もいい迷惑ですが、だました奴はさらにひどいですよね。それで、お城坊主の息子は、その後尋ねてきませんか?」
「おとといの晩、怒って帰って行ったきり、昨日も今日も来てません」
「また来ても脅迫しても、肝心な絵馬は無事なんだから、別に怖がることはありません。適当にあしらっておけばいいんじゃないですか」
「ありがとうございます」

原文 (会話文抽出)

「いや、よく判りました。わたしも大方そうだろうと思って居りました」
「就いてはもう一つ伺いたいことがありますが、近頃ここへ来てこの絵馬の図取りでもしていた者をお見掛けになりませんでしたろうか」
「成程そう云えば、去年の十月か十一月頃のことでした」
「四十前後の町人風の男が二十三四の女と二人連れで参詣に来て、この絵馬の下に暫く立って眺めていましたが、女は矢立と紙を取り出して何か模写しているようでした。その後に又来ましたが、今度は女ひとりで、やはり一心に写しているように見受けました」
「その女というのは絵かきでしょうね」
「むむ。どうで偽物をこしらえるのだから、絵かきも味方に入れなけりゃあならねえ。男というのは絵馬屋の亭主で、女は出入りの絵かきだろう。これから帰ったら、その女を探ってみろ」
「ようがす。女の絵かきで、年ごろも人相も判っているのだから、すぐに知れましょう。そこで、大津屋はどうします。もう少し打っちゃって置きますか」
「どうで一度は挙げる奴らしいが、まあ、もう少し助けて置け。いよいよおれの鑑定通り、ここの絵馬が無事であるとすれば、大津屋の亭主は丸多をだまして、偽物を押し付けたに相違ねえ。それを知らずに偽物を後生大事にかかえて、丸多の亭主は何処をうろ付いているのだろう。考えてみると可哀そうでもある。なんとかして早くそのありかを探し出してやりてえものだ」
「帰りに堀ノ内へ廻りますかえ」
「ついでと云っちゃあ済まねえが、ここらまでは滅多に来られねえ。午飯を食ってお詣りをして行こう」
「おれは又、途中で考え付いたが、そのお城坊主の舎……万次郎とかいう奴は、大津屋の亭主とぐるになっているのじゃあるめえかな。丸多が絵馬で半気違いになっているのに付け込んで、大津屋が先ず偽物でいい加減に儲けた上に、今度は万次郎が入れ代って、謀叛人の絵馬を云いがかりに、丸多を嚇しつけて何千両という大仕事を企んだのじゃあねえかと思うが……。もしそうならば、重々太え奴らだ。しかしお城坊主の伜なんぞには随分悪い奴がある。下手をやると逆捻じを喰うから、気をつけて取りかからなけりゃあならねえ」
「まあ、そういうわけだから、絵馬の一件は心配するほどの事はありません。だまされた人間もよくねえが、欺した奴はなお悪いという事になる。そこで、お城坊主の伜というのは、その後に尋ねて来ませんかえ」
「おとといの晩、怒って帰ったきりで、きのうも今日も見えません」
「又来て嚇し文句をならべても、肝腎の絵馬は無事なのだから、別に恐れることはありません。まあいい加減にあしらって置くがようござんすよ」
「ありがとうございます」


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