岡本綺堂 『半七捕物帳』 「おい、何もかも正直に云ってくれねえじゃあ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「おい、全部正直に話してくれよ。お姉さんが助かるかどうかはお前の口にかかってるんだから、何もかも隠さずに話してくれよ。最近、お姉さんはお父さんと喧嘩してたりした?」
「はい。この頃よく喧嘩します」
「あの男のことか?」
「違います」
「だって、お姉さんには古着屋の二番息子がいてるんでしょ?」
「そうだけど、喧嘩の原因はそれじゃないんです。うちのお父さんが柳橋から出てって、沼津とか静岡とか遠いところに引っ越そうとしてるんですけど、姉さんが嫌だと言ってるんです」
「そりゃ嫌だろうな」
「なんで急にそんなこと言い出したんですかね?なんか理由があるんでしょうけど……」
「それはわかんないんですけど、この町にいるのが嫌だって言ってるんです。それで姉さんとよく喧嘩するんです。私も困って仲裁に入ったりしてるけど、なんで引っ越すのか理由がわかんないから、どっちの味方にもなれないんです」
「変だなあ。そんなときに親父が殺されちゃって、お姉さんが……。まさか殺しはしてないだろうけど、何か関係があるんじゃないかって思われてるんだろ。まあ、無理もないよ。俺もまずそんなことを考える。で、古着屋の二番息子はまだ呼ばれてないのか?」
「呼ばれに行ったんですけど、昨日からどこかに行っててまだ帰ってないんです」
「あの息子、なんて名前だっけ?」
「定さんっていうんです」
「間違いない。定次郎ってやつだな。その定次郎が昨日から帰ってないのか?」

原文 (会話文抽出)

「おい、何もかも正直に云ってくれねえじゃあいけねえ。姉さんが助かるのも助からねえのも、おめえの口一つにあることだ、なんでもみんな隠さずに云って貰いてえ。姉さんはこの頃なにか親父と折り合いの悪いことでもあったんじゃあねえか」
「ええ。この頃は時々に喧嘩をすることがあるんです」
「情夫の一件かえ」
「いいえ、そうじゃないんです」
「だって、姉さんには米沢町の古着屋の二番息子が付いているんだろう」
「それはそうですけれど、喧嘩の基はそれじゃないんです。家のお父っさんが柳橋を引き払って、沼津とか駿府とか遠いところへ引っ越してしまおうというのを、姉さんが忌だと云って……」
「そりゃあ忌だろう」
「なぜ又、おめえのところの親父はそんなおかしなことを出しぬけに云い出したんだ。なにか訳があるだろう」
「それは判らないんですが、ただ無闇にこの土地にいるのは面白くないと云って……。それで姉さんとたびたび喧嘩をしているんです。あたしも中へはいって困ったこともありますが、なぜ引っ越すんだか、その訳が判らないんですもの。良いとも悪いとも云いようがありません」
「おかしいな。すると、その矢先に親父が殺されたんで、姉さんが……。まさかに自分が手をくだしもしめえが、何かそれに係り合いがあるだろうと見込みを付けられたんだね。まあ、無理もねえところだ。おれにしても先ずそんなことを考える。そこで古着屋の二番息子はまだ呼ばれなかったかえ」
「呼びに行ったんでしょう。ですけれど、ゆうべから何処へか行って、まだ帰らないんだそうです」
「あの息子は何とか云ったっけね」
「定さんというんです」
「違げえねえ。定次郎というんだね。その定次郎はゆうべから帰らねえか」


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