岡本綺堂 『半七捕物帳』 「いらっしゃい」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「いらっしゃい」
「いや、私は履き物を買いには来たんじゃなくてね。神田三河町の徳次兄貴に頼まれて来たんだけど……。あんたが半介さんですか?」
「はい、半介です」
「面白い勝負の邪魔をして、悪かったな」
「はは、勝負事……。こんな勝負事なら、店の前でも十分にできますよ」
「まあ、勝負は明日まで預かっておいてください」
「遊郭の若い衆らしいけど、いくら昼間でもこんなところで将棋を指してるようじゃ、宿も最近は閑古鳥が鳴いてるみたいですね」
「めちゃくちゃ閑ですよ。何しろ倹約の御趣旨が徹底してるんで」
「先月の26日なんてひどかったですよ」
「実は今日来たのはそれとは別に、さっきも言った通り、徳次兄貴に頼まれて来たんです。あんたは兄貴を知ってますよね?」
「2、3度お会いしたことがあります。それで兄貴の用事っていうのは何ですか?」
「ちょっとあんたに聞きたいことがある。……あんたはおとといの夜、北新堀の鍋久に何しに行ったんですか?」
「まったく悪いことはできませんよ。徳次兄貴はもう知ってるんですか?それはまいりませんでした。本当に申し訳ありません」
「徳次兄貴に睨まれたら助からないから、何もかも正直に言いますけど、実はおとといの夜鍋久に行って、ちょっとばかり小遣いをもらってきました」
「でも、あの片袖は偽物でも作り物でもなくて、私が実際に品川で夜釣りに行って引き上げたんです。死体を引き上げるとあれこれ面倒なことになるから、不人情なようですが流しちゃって、片袖だけ取って来たんですよ」
「鍋久の一件を知ってるんですか?」
「早いからですよ」
「それにしても、その死体が鍋久の嫁だって分かったのはどうしてですか?」
「それは確かには分かりません。推測ですよ」
「向こうに行って、もし間違ってたら引っ込みがつかないですよ」
「まあ段取りがあります」
「いきなり証拠を見せたりしないんです。まずは番頭に会って、『奥さんの死体は見つかりましたか?』って聞きます。まだ見つかってないって言いますよね。家を飛び出した時にどんな物着てたかって聞くと、4つの梅をあしらった単衣でこういう柄だって言うんです。それがぴったり一致してれば、もうこっちのものです。そこで初めて怪談っぽくなって、証拠の片袖をお見せするんですから、100回に1回も失敗することはありません。ねえ、そうじゃありませんか?」

原文 (会話文抽出)

「いらっしゃい」
「いや、わたしは履き物を買いに来たのじゃあねえ。神田三河町の徳次兄いに頼まれて来たのだが……。おまえさんは半介さんかえ」
「へえ、半介でございます」
「おもしろい勝負事の邪魔をして、済まなかったな」
「はは、勝負事……。こんな勝負事なら、店の先でも立派にやれますよ」
「まあ、勝負はあしたまでお預かりだ」
「女郎屋の若い衆らしいが、いくら昼間でもここらへ来て将棋をさしているようじゃあ、宿もこの頃は閑だと見えるね」
「ひどい閑ですよ。なにしろ倹約の御趣意がよく行き届きますからね」
「先月の二十六日なんぞも寂しいもんでした」
「実はきょう来たのはほかでもねえが、今も云う通り、徳次兄いに頼まれて来たのだ。おめえは兄いを識っているのだろうね」
「二、三度お目にかかった事があります。そこで兄いの御用というのは何んでございますね」
「少しおめえに訊きてえことがある。……おめえはおとといの晩、北新堀の鍋久へ何しに行ったのだね」
「まったく悪い事は出来ねえ。徳次兄いはもう知っていなさるのかえ。こりゃあ恐れ入りました。まことに相済みません」
「徳次兄いに睨まれちゃあ助からねえから、何もかも正直に云いますがね。実はおとといの晩鍋久へ行って、ちっとばかり小遺いを貰って来ましたよ」
「だが、あの片袖は贋物でも拵え物でもねえ、全くわっしが品川へ夜釣りに行って引き揚げたんです。死骸を引き揚げるといろいろ面倒になるから、不人情のようだが突き流してしまって、片袖だけを取って来たんですよ」
「鍋久の一件を知っているのかえ」
「そりゃあ早いからね」
「それにしても、その死骸が鍋久の嫁だということがどうして判ったね」
「そりゃあ確かには判らねえ。そこは推量さ」
「向うへ行って、もし間違っていたら引っ込みが付くめえ」
「そりゃあ段取りがありまさあね」
「いきなり証拠物を出しゃあしねえ。まず番頭に逢って、こちらのお嫁さんの死骸は見付かったかと訊くと、まだ見付からねえという。家を飛び出した時にはどんな物を着ていたかと訊くと、四入り青梅の単衣でこうこういう縞柄だという。それがぴったり符合していりゃあ、もう占めたものだ。そこで初めて怪談がかりになって、証拠の片袖を御覧に入れるんだから十に一つも仕損じはありゃあしねえ。ねえ、そうじゃあありませんか」


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