岡本綺堂 『半七捕物帳』 「おい、半七、おめえは何か見付け出したか。…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「おい、半七、何か見つけたか?この事件をどう判断する?」
「さあ、駆け出しの僕たちにはよく分かりませんが、お節という嫁は生きているんでしょうね」
「そうだ、生きてるに違いない」
「鍋久の土蔵から金を持ち出したのも、お節が自分で盗んだのか、仲間と組んで盗ませたのか、そのどちらかでしょうね。それがバレそうになったので、気が狂ったふりをしたんでしょう。品川の奴が怪談っぽく片袖を持って来たのも、お節が本当に死んだと思わせる芝居で、きっとお礼をやるって巧みに言って、行きがけの駄賃に10両せしめたんでしょうね」
「むむ。それで、久兵衛を殺したのは誰だと思う?」
「それが難しいので、僕も前から考えてるんですが、何しろ犯人はお節じゃなさそうですよね。お節なら自分の剃刀を使うはずなんですが……。それとも自分の剃刀が切れが悪いから、人を殺すために新しい刃物を買ったんでしょうか。そもそも、お節が亭主を殺すほどのことをするとは考えにくいし、ただ気が狂ったふりをすれば川に飛び込めばいいのにと思います……。僕の考えじゃ、久兵衛を殺してお節になりすまして川に飛び込んだのは、お節本人じゃない。泳ぎがうまい奴が替え玉になって、水の中を潜って逃げたんだと思います。みんなにはお節に見えたかもしれないけど、暗い夜だし、お節の着物をそっくり着て、乱れた髪を顔にかぶってたら、誰にも簡単に分からないですよね。特にみんなが慌ててた時ですから、なおさら本物か偽物かの区別がつかないと思います」
「お前もなかなか素人じゃないな」
:「実は僕も替え玉だと思ってたんです。こうなると、お節はもちろん、その親父の浪人者や、替え玉の女や、品川から来たっていう奴や、大勢の奴らが組んで、鍋久の家を荒らそうと企んだに違いありません。この捜査はよっぽど広くやらないといけない。半七、お前も手伝ってくれ。俺1人じゃ手が回りきらない」
「では、僕はこれからどっちに行きましょう?」
「まずは浅草のお節の実家だ。父親の小左衛門っていう浪人者もただの鼠じゃないだろう。でも、そっちは俺が行く」
「お前は品川に行ってくれ。怪談の片袖を持って来た奴の身元を探るんだ。弥平とかいったそうだが、どうせ本名じゃないと思う。鍋久の番頭から聞いた顔や年を考えてみると、少し心当たりがないでもない。鍋久には真面目な顔をして来たそうだけど、そいつは高輪の北町で草履屋やってる半介っていう奴らしい。表向きは草履屋だけど、本当の商売は売春宿で、普段から評判の悪い奴だ。俺も2、3度会ったことがあるから、神田三河町の徳次の弟分と言えば、逃げも隠れもしないだろう。もし逃げるようなら、いよいよ怪しいのは決まってるから、容赦なく捕まえろ。相手は半介で、こっちは半七だ。どっちの半が勝つか、腕比べだ」
「了解しました」

原文 (会話文抽出)

「おい、半七、おめえは何か見付け出したか。この一件をどう鑑定する」
「さあ、駈け出しのわたし等にゃあよく判りませんが、お節という嫁は生きているのでしょうね」
「そうだ、生きているに違げえねえ」
「鍋久の土蔵から金を持ち出したのも、お節が自分で盗んだのか、同類の手引きをして盗ませたのか、二つに一つでしょうね。それが露顕そうになって来たので、気ちがいの真似をして飛び出したのだろうと思います。品川の奴が怪談がかりで片袖をとどけて来たのも、お節がほんとうに死んだと思わせる狂言で、きっとお礼をすると云ったなぞと巧い謎をかけて、行きがけの駄賃に十両せしめて行ったのでしょうね」
「むむ。そこで、久兵衛を殺したのは誰だと思う」
「それがむずかしいので、私もさっきから考えているのですが、なにしろ下手人はお節じゃあありますまいね。お節ならば自分の剃刀を使いそうなものだが……。それとも自分の剃刀は切れが悪いので、人殺しをするために新らしい刃物を買ったのでしょうか。第一、お節が亭主を殺すほどの事はねえ、ただ気ちがいの真似をして川へ飛び込んでしまえば好さそうに思うが……。わたしの考えじゃあ、久兵衛を殺して川へ飛び込んだのは、本人のお節じゃあねえ。泳ぎの上手な奴が替玉になって、水をくぐって逃げたのだろうと思いますね。みんなの眼にはお節と見えたかも知れねえが、暗い夜の事じゃああるし、お節の着物をそっくり着込んで、散らし髪を顔一面に打っかぶっていりゃあ、誰にもちょいと判りますめえ。殊にみんなが慌てている時だから、猶さら本物か贋物かの見分けが付かなかろうと思います」
「おめえもなかなか素人じゃあねえ」
「実はおれも替玉と睨んでいたのだ。こうなると、お節は勿論だが、その親父の浪人者や、替玉の女や、品川から来たという奴や、大勢の奴らが徒党を組んで、鍋久の家を荒らそうと企んだに相違ねえ。この探索はよっぽど手を拡げなけりゃあならねえ事になった。半七、おめえも働いてくれ。おれ一人じゃあ手が廻らねえ」
「そうすると、わたしはこれからどっちへ廻りましょう」
「さしあたりは浅草のお節の実家だ。おやじの小左衛門という浪人者も唯の鼠じゃああるめえ。だが、そこへは俺が行く」
「おめえは品川へまわってくれ。怪談の片袖を持って来た奴の身もとを探るのだ。弥平とかいったそうだが、どうせ本名じゃああるめえと思う。鍋久の番頭から聞いた人相や年頃をかんがえると、少しは心当りがねえでもねえ。鍋久へは堅気の風をして来たそうだが、そいつは高輪の北町で草履屋をしている半介という奴らしい。表向きには草履屋だが、ほんとうの商売は山女衒で、ふだんから評判のよくねえ野郎だ。おれも二、三度逢ったことがあるから、神田三河町の徳次の兄弟分だと云やあ、まさか逃げも隠れもしめえ。もし逃げるようならば、いよいよ怪しいに決まっているから、容赦なしに挙げてしまえ。相手は半介で、こっちは半七だ。どっちの半が勝つか、腕くらべだ」
「承知しました」


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