岡本綺堂 『半七捕物帳』 「まあ、そういうわけなんです」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「まあ、そういうわけです」
「八蔵の話の様子じゃ、あの鶏はお六の家にいる時から、何か暴れてたみたいだし、大森の時も多分お六って分かって飛びかかったんでしょう。それで、お六の家の番頭って奴を、今日はちゃんと観察してきましたが、農家の生まれの苦みばしった男で、顔は見覚えはないけど、これまたただの町人じゃなさそうな奴です。かといって、遊び人にはしてはやぼったいし、まあ、屋敷の大部屋にでも転がってたような奴ですね」
「折助か」
「折助なんてのは軍鶏屋の客だ。無縁じゃないかもしれない。これでどうにかなんと白と黒の石が揃ったようです。まあ、お前の五目並べをやってみろ」
「俺の並べ方じゃ、鳥亀の女房が店の客の折助とできて、亭主が釣り好きなのをいいことに、夜中に下矢切に鮒釣りに出かけてる隙に、折助は先に回って、葦の間か柳の木の陰にでも隠れてて、急に亭主を川に突き落とす……。って感じですかね」
「土地にいると面倒だから、浅草の店を閉めて品川に引っ越して、桂庵で商売替えして、その折助が番頭、実は亭主になって一緒に暮らしてる。で、例の鶏だけど……。店を閉める時にみんな売ったらよさそうなのに、何か都合があって1組だけ品川まで連れてってたら、それが変に暴れたりしてる。2人は何だか後ろめたくて、薄気味悪いような気もするから、殺すか売るか2択に1つってことになって、それが八蔵の手を渡って、大森の茶屋に売られた。どうですか?違うか?」
「誰の目も間違いない。まずそっちだろうな。いくら商売でもバチが当たりそうだぜ」
「その通りで、女も男も重罪で、引き回しの上で磔刑だ。それを知りながら犯罪は減らない。困ったもんだ。でも、こうなったら見逃すわけにはいかない。松吉と手分けして捜査にかかれ。お前の担当は浅草の方で、鳥亀の亭主はどんな人間だったのか、女房はどんなことをしてたのか、昔のことを調べてくれ。鳥亀にも何か親戚がいるだろう。店の奉公人もいたはずだ。そんなのを調べれば、大体は見当がつくはずだ。松吉には品川の方を担当させて、男の身元を調べてこさせよう」
「了解です。浅草の方を引き受けました」
「連日のお出かけで疲れただろうけど、これもお仕事だ。早く家に帰って、奥さんと寝酒でも飲んでくれ」
「鈴ヶ森の刑場近くの海岸で死体が見つかりました」
「男か、女か」
「20、22くらいの若い男で、色白の美男で、旗本屋敷の若侍かと思わせるような姿なんですけど、匕首か何かで刺されたらしい傷が4カ所……。首に手拭が巻いてあるので、最初は首を絞めようとして失敗して、それから刃物でやったみたいですね。大小は誰かに取られたらしく、本人は丸腰で、そこらにも落ちてませんでした。死体は海にでも投げ込むつもりで、波打ち際まで引きずってったみたいだけど、人が来たのでそのままにして逃げたようです。懐中物がないので、手がかりになるようなものは何もありません」
「その死体は今朝見つけたのか?」
「そうです。多分昨夜のうちにやったんでしょうね。検視が終わるまで待機してたんですけど、すぐに戻ってきました。どうしたらいいですか?」
「鈴ヶ森は町方の管轄外だけど、いずれ頼んでくるだろう。特に屋敷者だから、まあひと通りは調べておいたほうがいい」
「それから、品川の桂庵の件だけど、亭主の身元はまだ分かってないのか?」
「湯島か池ノ端あたりで中間奉公してたっぽいんですけど、どこの屋敷かはまだ特定できてないです。まあ、あそこは屋敷が多いんで……。まあ、そのうち何とかしますから、もう少し待っててください」
「鈴ヶ森の事件って、もしかすると鳥亀の件と関係があるかもしれないな」
「なんでですか?」
「なんでって聞かれても困るけど、長年この仕事をしてると、何となく勘が働くことがあるんだ。虫の知らせってやつかな。それが、また不思議と当たるんだ。今回もなんかそんな気がするんだよな」
「もしそうなら、ますます大ごとになりますね。とりあえず鈴ヶ森の方を調べてみましょう。意外な手がかりがあるかもしれません」

原文 (会話文抽出)

「まあ、そういうわけなんです」
「八蔵の話の様子じゃあ、あの鶏はお六の家にいる時から、なにか暴れていたらしいようですから、大森の時も恐らくお六と知って飛びかかったのでしょう。そこでお六の家の番頭という奴を、きょうは確かに見とどけて来ましたが、小作りの苦味走った男で、顔に見覚えはありませんが、これも唯の町人らしくない奴です。と云って、遊び人にしちゃあ野暮に出来ているし、まあ、屋敷の大部屋にでも転がっていたような奴ですね」
「折助か」
「折助なんぞは軍鶏屋のお客だ。まんざら縁のねえこともねえ。これでどうにか白と黒の石が揃ったようだ。まあ、おめえの五目ならべをやってみろ」
「わっしの列べ方じゃあ、鳥亀の女房が店の客の折助と出来合って、亭主の釣り好きを幸いに、暗いうちから下矢切へ鮒釣りに出してやる。折助は先廻りをして、芦の間か柳の蔭にでも隠れていて、不意に亭主を突き落とす……。と、まあ、云ったような段取りでしょうね。土地にいちゃあ面倒だから、浅草の店をしめて品川へ引っ越して、桂庵に商売換えをして、その折助が番頭実は亭主になって一緒に暮らしている。そこで、例の鶏の一件だが……。店を仕舞うときにみんな売ってしまいそうなものだが、何かの都合でひと番いだけ品川まで持って行くと、こいつが変に暴れたりする。二人はなんだか気が咎めて、薄っ気味が悪いような気もするので、ぶち殺すか売り飛ばすか二つに一つということになって、それが八蔵の手を渡って、大森の茶屋に売られて行った。どうでしょう。違いますか」
「誰の眼も違わねえ。まずそこらだろうな。いくら商売でも忌になるぜ」
「その通りであって見ろ、女も男も重罪で、引き廻しの上に磔刑だ。それを知りながら科人の種は尽きねえ。どうも困ったものだ。といって、こうなったら打っちゃっても置かれねえ。松吉と手分けをして詮議にかかれ。おめえは浅草の方を受け持って、鳥亀の亭主はどんな人間だったか、女房はどんな事をしていたか、昔のことを洗ってみろ。鳥亀にも何か親類があるだろう。店の奉公人もあった筈だ。そんなのを詮議したら、大抵の見当は付くだろう。松には品川の方を受け持たせて、男の身許を洗わせて見よう」
「ようござんす。浅草の方は引き受けました」
「毎日の遠出でくたびれただろうが、これも御用で仕方がねえ。早く家へ帰って、かみさんを相手に寝酒の一杯も飲め」
「鈴ヶ森の仕置き場のそばで死骸が見付かりました」
「男か、女か」
「二十一二の若い男で、色白の小綺麗な、旗本屋敷の若侍とでも云いそうな風体で、匕首か何かで突かれたらしい疵が四カ所……。首に手拭が巻き付けてあるのを見ると、初めに咽喉を絞めようとして、それを仕損じて今度は刃物でやったらしいのです。大小は誰か持って行ったらしく、本人は丸腰で、そこらにも落ちていませんでした。死骸は海へでも投げ込むつもりで、浪打ちぎわまで引き摺って行ったらしいが、人が来たのでそのままにして逃げたと見えます。懐中物はなんにも無いので、ちっとも手がかりになりそうな物はありません」
「その死骸はけさ見つけたのか」
「そうです。多分ゆうべのうちにやったのでしょうね。検視の済むのを見とどけて、わっしは急いで帰って来たのですが、どうしましょう」
「鈴ヶ森じゃあ町方の係り合いじゃあねえが、いずれ頼んで来るだろう。殊に屋敷者だから、まあひと通りは調べて置くがいいな」
「それから、品川の桂庵の一件だが、亭主の身許はまだ判らねえか」
「なんでも湯島か池の端あたりに中間奉公をしていたらしいのですが、どこの屋敷かまだ突き留められません。なにしろあの辺には屋敷が多いので……。まあ、そのうちに何とかしますから、もう少し待って下さい」
「鈴ヶ森の人殺しは、ひょっとすると鳥亀の一件にからんでいるかも知れねえな」
「なぜです」
「なぜと訊かれちゃあ返事に困るが、多年この商売をしていると、自然に胸に浮かぶことがある。まあ、虫が知らせるとでもいうのかも知れねえが、それが又、奇妙にあたることがあるものだ。今度の一件も何だかそんな気がしてならねえ」
「もしそうならば、いよいよ事が大きくなりますね。なにしろ鈴ヶ森の方を調べてみましょう。案外の手がかりがあるかも知れません」


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