岡本綺堂 『半七捕物帳』 「いや、朝っぱらからお邪魔をしました」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「いやあ、朝っぱらから失礼しました」
「おい、庄太。おれもぼんやりしてたけど、お前もかなりうっかり者だぞ。あの事件の女、お前の縄張りの浅草の、しかもすぐ目の前の吾妻橋に住んでたんだろ?」
「いやあ、参った。すっかり忘れてました……」
「家に帰ってから思い出したよ。鳥亀、鳥亀……。昔親分を連れて行ったことあったよな」
「むむ。雪駄の皮みたいな軍鶏を食わせた家だな。それで、昨日はどうしたんだ。大森に出かけたのか?」
「行ってきましたよ。相変わらず道が悪くて……。あの茶屋に聞いてみると、お医者さんが来て手当てして、女は駕籠に乗って帰ったそうです。駕籠屋のに聞くと、送り届けた先は品川の南番場、海保寺っていうお寺の門前……。それから帰りに様子を見たら、女の家は桂庵で、主にあの辺の女郎屋や引手茶屋や料理屋の女の奉公人を出入りさせてるようです。女は去年の3月頃から引っ越して来て、25、6の番頭と2人で暮らしてるけど、その番頭が亭主か情夫だろうって近所の評判ですよ。それで、番頭ってどんな奴かちゃんと調べてやろうと思ったんですが、あいにく留守で顔を見ることができませんでした。それからですね、親分。鶏は死んだそうですよ。その日の夕方に絞められたそうです」
「鳥亀の亭主って、矢切の渡し場の近くで釣りをしてて、沈んで死んだって話じゃないか」
「よくご存じですね」
「実は俺も今朝調べて来たんだけど、鳥亀の亭主の安蔵っていうのは、去年の春の彼岸に下矢切で溺れ死んだらしい……。こうなると親分の言う通り、ちょっと怪しいですね。これから矢切に行って調べたところで、去年のことじゃどうにもならねえから、いっそ矢口に行ってみるか。大森の女将さんは曖昧なことを言ってたけど、他の女中にうまいこと聞き込んで、鶏を売りに来た奴の居場所をちゃんと突き止めてきました。矢口の新田神社の近くの八蔵っていう奴だそうです」
「矢切で死んだ奴の捜査で矢口へ行く……。矢の字尽くしは何か因縁でもあるのかもしれねえ。おまけにどっちも渡し場だな」
「じゃあ気の毒だけど矢口に行って、あの鶏はどこで買ったのか、調べてくれ。こうなったら、ちょっとぐらい動いても無駄にはならねえ」
「そうです、そうです。これは何か引っかかりがありそうですよ。でも、今日は矢口までは行けないから、明日にしましょう」

原文 (会話文抽出)

「いや、朝っぱらからお邪魔をしました」
「おい、庄太。おれもぼんやりだが、おめえもよっぽどうっかり者だぜ。例の一件の中年増はおめえの縄張り内の浅草で、しかも眼のさきの吾妻橋に住んでいたのじゃあねえか」
「いや、閉口。すっかり度忘れをしてしまって……」
「家へ帰ってから思い出しましたよ。鳥亀、鳥亀……。いつか一度、親分を案内して行ったことがありましたよ」
「むむ。雪駄の皮のような軍鶏を食わせた家だ。そこで、きのうはどうした。大森へ出かけたか」
「行きましたよ。相変らず道が悪くって……。あの茶屋へ行って訊いてみると、あれから医者が来て手当てをして、女は駕籠に乗って帰ったそうです。駕籠屋の話を聞くと、送り着けた先は品川の南番場で、海保寺という寺の門前……。それから帰りに覗いて見ましたら、女の家は桂庵で、主にあの辺の女郎屋や引手茶屋や料理屋の女の奉公人を出したり入れたりしているようです。女は去年の三月頃から引っ越して来て、二十五六の番頭と二人暮らしだが、その番頭というのが亭主か情夫だろうという近所の評判ですよ。そこで、番頭というのはどんな奴だか、面をあらためてやろうと思ったが、あいにく留守で首実検は出来ませんでした。それからね、親分。鶏は助からねえ。その日の夕方に絞められてしまったそうですよ」
「鳥亀の亭主というのは、矢切の渡し場の近所へ釣りに行って、沈んでしまったというじゃあねえか」
「よく知っていなさるね」
「実はわっしも今朝調べて来たのですが、鳥亀の亭主の安蔵というのは、去年の春の彼岸に下矢切で土左衛門になったそうで……。こうなると親分のいう通り、ちっと変な事になりそうですね。これから矢切へ行って見たところで、去年のことじゃあ仕様がねえから、いっそ矢口へ行ってみましょうか。大森のかみさんは曖昧なことを云っていましたが、ほかの女中にカマをかけて、鶏を売りに来た奴の居所をちゃんと突き留めて来ました。そいつは矢口の新田神社の近所にいる八蔵という奴だそうです」
「矢切で死んだ奴の詮議に矢口へ行く……。矢の字尽しも何かの因縁かも知れねえ。おまけにどっちも渡し場だ」
「じゃあ気の毒だが矢口へ行って、あの鶏はどこで買ったのか、調べてくれ。こうなったら、ちっとぐらい手足を働かせても無駄にゃあなるめえ」
「そうです、そうです。こいつは何か引っかかりそうですよ。だが、これから矢口までは行かれねえから、あしたにしましょう」


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