岡本綺堂 『半七捕物帳』 「何をしていやあがるのか。いや、無理もねえ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「何やってんのよ?ま、無理ないよね。あいつらには荷が重すぎるから」
「大雨ですね」
「おー、お疲れ。さっそくだけど、見当はついてきたか?」
「まだ全部じゃないけど、ちょっと見込みは出てきたよ」
「じゃ、ちょっと聞いてよ。その行者ってさ、17、8くらいに見えて。超美人で上品で、言葉も京都弁で、誰もが公家のお嬢さんって思うくらいらしいよ。台みたいな高いものを作って、そこに神様のお札とか榊を立てて、部屋の周りに縄を張って、自分も神様のお札持って、それを振って何かお祈りしてるんだって」
「どんなお祈りをするの?」
「やっぱり、お金持ちになりたいとか、病気治したいとか、なくしたものを探したいとか、よくあるお祈りに占いも混ぜてやってて、それがすごい効くみたいで、めっちゃ信仰してる奴もいるらしい。毎日50、60人は来るんだってさ。儲けも結構あるんじゃないかな。値段は自由に決めていいみたいだけど、1人も2人も3人もお金出す奴もいるんだって。すごいよ」
「それはそうとして、その行者、お金持ちそうな信者連れてって、秘密のお祈りして大金巻き上げてるらしいよ。どうよそれ」
「それもやってるみたいですね」
「でも、それは極秘で、うっかりしゃべると1年以内に死ぬって脅されてるから、誰もはっきり言わないらしい。それに、その秘密のお祈りは夜しかやらないんだって。誰に秘密のお祈りしてもらったか分かると効かないから、頼む奴はみんな夜中に顔隠したり変装したりして、裏口からそっと出入りしてるんだって。誰かもよく分からないらしいよ。あいつなかなか頭いいよな」
「ふーん」
「あと、浪人みたいな人が出入してるの見た?」
「聞いてないですね」
「あいつの家には、本人以外に誰がいるの?」
「弟子みたいなのがいるのかな?」
「50くらいの男と、15、6の女の子と、あと台所の手伝いみたいな女が2人いるみたいだけど、台所の手伝いは最近雇った村から来た人で、お祈りのことは男と女の子がやってるらしいよ」
「班長。多吉さんの方で何か面白いこと見つけましたか?」
「面白いってほどじゃないけど、ちょっとは分かった。そっちはどうよ?」
「僕の方でも特筆すべき情報はなしですが、1つだけ妙な話を聞きましたよ。葺屋町に炭団伊勢屋っていう大きな紙屋があるんです。何代か前の先祖が炭屋だったとかで、今でもそう呼ばれてますが、土地も家も持っていてお金持ちだって評判です。その伊勢屋の息子が最近ちょっと頭がおかしくなったみたいで……。息子は久次郎って言って今年20になるんだけど、俳優の河原崎権十郎にそっくりってことで、権十郎息子ってあだ名が付いてて、浮気な娘たちは息子の顔を見るためにわざわざ遠くから紙を1枚買いに行くくらいで、店も繁盛してたんです。でも、例の行者のところへ行ってから、なんか様子がおかしくなったって」
「その息子もお祈りを頼みに行ったの?」
「久次郎のお母さんが春の終わり頃から原因不明の病気で体調が悪くて、茅場町にいい行者がいるって噂を聞いて診てもらったのがきっかけらしいんです」

原文 (会話文抽出)

「何をしていやあがるのか。いや、無理もねえ。あいつらにはちっと荷が重いからな」
「よく降りますね」
「やあ、御苦労。そこで早速だが、ちっとは種が挙がったか」
「まだ十分というわけには行きませんが、少しは種を洗い出して来ました」
「まあ、聴いておくんなせえ。その行者というのはまったく十七八ぐらいに見えるそうです。すてきに容貌のいい上品な女で、ことばも京なまりで、まあ誰がみてもお公家さまの娘という位取りはあるそうですよ。なんでも高い段のようなものを築いて、そこへ御幣や榊をたてて、座敷の四方には注連を張りまわして、自分も御幣を持っていて、それを振り立てながら何か祷りのようなことをするんだそうです」
「どんな祷りをするんだろう」
「やっぱり家運繁昌、病気平癒、失せもの尋ねもの、まあ早くいえば世間一統の行者の祈祷に、うらないの判断を搗きまぜたようなもので、それがひどく効目があるというので、ばかに信仰する奴らがあるようです。なんでも毎日五六十人ぐらいは詰めかけるといいますから、随分実入りがあることでしょう。祈祷料は思召しなんですけれど、ひとりで二歩三歩も納める奴があるそうですから、たいしたものです」
「それはまあそれとして、その行者は工面のよさそうな信心ものを奥へ連れ込んで、なにか秘密の祈祷をして多分の金を寄進させるというじゃあねえか。それはどうだ」
「それもあるらしいんです」
「だが、それはいっさいの秘密の行法で、うっかり口外すると一年経たねえうちに命がなくなると嚇かされているので、誰もはっきりと云うものがねえそうです。それに、その秘密を行なうのはいつでも夜なかときまっていて、どこの誰が秘密の祈りをして貰ったということが他人に知れると、その験がないというので、秘密の祈りを頼むものは世間がみんな寝静まった頃に、顔を隠したり、姿を変えたりして、そっと裏口から出入りをしているので、誰だかよく判らないということです。行者の奴め、なかなかうまく考えたもんですよ」
「むむ」
「そのほかに何か浪人らしい者の出這入りする様子はねえか」
「それは聞きませんでした」
「行者の家には、当人のほかにどんな奴らがいる」
「なにか、弟子のような者でもいるのか」
「五十ばかりの男と、十五六になる小娘と、ほかに台所働きのような女が二人いるそうですが、台所働きはこのごろ雇った山出しの奉公人で、祈祷の方のことは一切その男と小娘とが引き受けてやっているんだそうです」
「親分。多吉さんの方で面白いことが手に入りましたかえ」
「面白いというほどのことも判らねえが、まあ少しばかり眼鼻をつけて来た。そこで、おめえの方はどうだ」
「わたくしの方でも取り立ててこうというほどの種は挙がりませんが、唯ひとつ、妙なことを聞き出しましたよ。葺屋町に炭団伊勢屋という大きい紙屋があります。何代か前の先祖は炭屋をしていたとかいうので、世間では今でも炭団伊勢屋といっているんですが、地所家作は持っていて、身上はなかなかいいという評判です。その伊勢屋の息子が此の頃すこし乱心したようになって……。息子は久次郎といって、ことし二十歳になるんですが、俳優の河原崎権十郎にそっくりだというので、権十郎息子というあだ名をつけられて、浮気な娘なんぞは息子の顔みたさに、わざわざ遠いところから半紙一帖ぐらいを伊勢屋まで買いに来るようなわけで、かたがた其の店も繁昌していたんですが、例の行者のところへ行って来てから、なんだか少し気が変になったというんです」
「その息子も祈祷をたのみに行ったのか」
「久次郎のおふくろというのが、その春の末頃から性の知れない病気でぶらぶらしているので、茅場町に上手な行者があるという噂をきいて、一度見て貰いに行ったのが病みつきになってしまったんです」


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