GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「私、このお亀の親戚なんですけど、こちらの娘さんを欲しいって話、聞きました。婿取りの一人娘みたいですが、それなのにどうしても欲しいって言うなら、奉公に出すのもやぶさかじゃないんですけど」
「もちろん、あなたの方にも都合があるでしょうけど、音信不通の約束とはいえ、せめて奉公先の屋敷の名前だけでも教えてください。親なら当然知りたいと思います」
「せっかくですが、屋敷の名前はここでは言えません。ただ中国のある大名だとだけ……」
「あなたのご職業は?」
「表使をしています」
「そうですか」
「では、申し上げにくいんですが、このご縁談はお断りさせていただきます」
「どうしてですか?」
「失礼ですが、屋敷の雰囲気が気に入りません」
「何を言ってるんだ。屋敷の雰囲気が分かるわけないじゃないか」
「奥に仕える女中の右の小指にたこがあるんです。それって奥も乱れてるんじゃないかって」
「お手柔らかに」
「お入りください。こちらへ」
「お客さんみたいですね」
「はい」
「では、改めて伺います」
「あの、恐れ入りますが、ちょっとお待ちください。あなたの偽物がここに来てまして、ぜひ立ち会った上で吟味させてください……」
「親分、失礼しました。さっきから様子がおかしいとは思ってましたが、三河町の親分さんだったんですね。もう降参です。頭巾を取りましょう」
「そうだろうと思った」
「実は外に出てみると、大名の屋敷からのお迎えで、駕籠も立派だった。奥女中の指にはたこがある。これじゃ芝居にならない。あんたはいったいどこから化けて来たんだ。偽の迎えも偽の上使もいいけど、役者の割に舞台が全然盛り上がってないじゃないか」
「恐れ入りました」
「この芝居は難しいと思ったけど、度胸でやってみる気になったんです。どうにか段取りはつけたけど、親分にはかないません。もう白状します。私は深川で生まれ育ちまして、母は長唄の師匠でした」
原文 (会話文抽出)
「御免くださいまし」
「わたくしはこのお亀の親戚の者でございますが、うけたまわりますれば、こちらの娘を御所望とか申すことで。なにぶんにも婿取りの一人娘ではございますが、それほど御所望と仰しゃるからは、御奉公に差し上げまいものでもございません」
「勿論、あなたの方にもいろいろの御都合もございましょうが、いくら音信不通のお約束でも、せめて御奉公の御屋敷様の御名前だけでも伺って置きたいと存じますのが、こりゃあ親の人情でございます。どうぞそれだけをお明かじ下さいましたら……」
「折角でありますが、御屋敷の名はここでは申されません。ただ中国筋のある御大名と申すだけのことで……」
「あなた様のお勤めは……」
「表使を勤めて居ります」
「左様でございますか」
「では、まことに申しにくうございますが、この御相談はお断わり申しとう存じます」
「なぜ御不承知と云われます」
「失礼ながら御屋敷の御家風が少し気に入りませんから」
「異なことを……。御屋敷の御家風をどうしてお前は御存じか」
「奥勤めの御女中の右の小指に撥胝があるようでは、御奥も定めて紊れて居りましょうと存じまして」
「御免くださりませ。たのみます」
「お出で遊ばしませ。まあ、どうぞこちらへ」
「どうやら御来客の御様子でござりますな」
「はい」
「では、重ねてまいりましょう」
「あの、恐れ入りますが、しばらくお控えくださいまし。ここにあなたの偽物がまいって居りますから、どうか御立ち会いの上で御吟味をねがいとう存じますが……」
「親分。お見それ申して相済みません。さっきからどうも唯の人でないらしいと思っていましたが、おまえさんは三河町の親分さんでございましたね。もういけません。頭巾をぬぎましょうよ」
「そんなことだろうと思った」
「実は表へまわって見ると、御大名の御屋敷のお迎いが辻駕籠もめずらしい。奥女中の指には撥胝がある。どうもこれじゃあ芝居にならねえ。おめえは一体どこから化けて来たんだ。偽迎いも偽上使もいいが、役者の好い割にゃあ舞台がちっとも栄えねえじゃあねえか」
「どうも恐れ入りました」
「この芝居はちっとむずかしかろうと思ったんですが、まあ度胸でやってみろという気になって、どうにかこうにか段取りだけは付けて見たんですが、親分に逢っちゃ敵いませんよ。こうなりゃあみんな白状してしまいますがね。わたくしは深川で生まれまして、おふくろは長唄の師匠をしていましたんです」