岡本綺堂 『半七捕物帳』 「妹はどうしたね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「妹さんはどうしたの?」
「あの、今日も参拝に来ました」
「鬼子母神様かい」
「ご信心深いですねえ。でも、鬼子母神様を拝むより俺を拝んだ方がいいかもしれないよ。千次郎の消息は全部分かったぜ」
「本当ですか?親分さんにお願いしておけば、それでお任せして安心なんですけど……」
「冗談じゃないよ。本当に消息が分かったんだ。それを教えようと思って、わざわざ下町から来たんだよ。師匠、他に誰もいないよね?」
「はい」
「師匠の前ではちょっと言いづらいけど、千次郎は市ヶ谷合羽坂の下の酒屋の裏にいるおみよっていう若い女と、近所の質屋に奉公してた頃から付き合ってたんだ。普段からあなたが気を揉んでた相手がその女だ。で、そこにどういう因縁があったのか知らないけど、千次郎とおみよは心中することに決めて、男が先に女を絞め殺した」
「まあ」
「本当に二人で死ぬつもりだったんですか?」
「本当か嘘か知らないよ。真剣に死ぬつもりだったんだろう。でも、女が死にそうになると、男って薄情なものさ。急に気が変わって逃げ出して、それからどこかに隠れてしまったんだ。死んだ女は良い顔だったから、きっと恨んでるだろうよ」
「二人が心中するって確かな証拠はあるんですか?」
「女の遺書が見つかったから間違いないだろう」
「その女と心中までするくらいなら、私は騙されてたってことですよね」
「師匠には申し訳ないけど、要するに、そういうことになるね」
「私はなんでこんなにバカなんでしょうね」

原文 (会話文抽出)

「妹はどうしたね」
「あの、きょうも御参詣にまいりました」
「鬼子母神様かえ」
「なかなか御信心だねえ。だが、鬼子母神様を拝むより俺を拝んだ方がいいかも知れねえ。千次郎のたよりはすっかり判ったぜ」
「ほんとうにそうでございますね。親分さんにお願い申して置けば、それでもう安心なんでございますけれど……」
「冗談じゃねえ。ほんとうにたよりが判ったんだ。それを教えてやろうと思って、わざわざ下町からのぼって来たんだぜ。師匠、だれもほかにいやあしめえね」
「はあ」
「師匠の前じゃあちっと云いにくいことだが、千次郎は市ヶ谷合羽坂下の酒屋の裏にいるおみよという若い女と、近所の質屋に奉公している時分から引っからんでいたんだ。お前がふだんから気をまわしている相手というのはその女だ。ところで、そこにどういう因縁があったか知らねえが、千次郎とおみよは心中することになって、男はまず女を絞め殺した」
「まあ」
「ほんとうに二人で死ぬ気だったんでしょうか」
「ほんとうも嘘もねえ。真剣に死ぬ気だったんだろう。だが、女の死ぬのを見ると、男は薄情なものさ。急に気が変って逃げ出して、それから何処かに隠れてしまったんだ。死んだ女は好い面の皮で、さぞ怨んでいるだろうよ」
「二人が心中だという確かな証拠があるんでしょうか」
「女の書置が見付かったから間違いもあるめえ」
「その女と心中までする位じゃあ、つまり私は欺されていたんですね」
「師匠にゃあ気の毒だが、煎じつめると、まあそんな理窟にもなるようだね」
「あたしはなぜこんなに馬鹿なんでしょうね」


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