岡本綺堂 『半七捕物帳』 「そこで、師匠。云うまでもねえこったが、そ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「そこで、師匠。言うまでもないことだけど、その千次郎って息子は早く見つけ出さないと困るんだよね?」
「ええ。一日でも早い方がいいです。何度も言うように、奥さんがひどく心配してるんですから」
「じゃあ、もう少し詳しく聞きたいことがあるんだが、師匠はどうせここへ入ろうとしてるんだろうから、俺たちも付いてもう一度戻ろうぜ」
「でも、それじゃあんまり迷惑ですから」
「なに、気にするな。さあ、俺が案内してやるよ」
「話は変わりますが、さっきの古着屋の息子の一件ですが……。あなたは俺に頼んでるんだから、なんでもかんでも打ち明けてくれないと、なんだかモヤモヤして仕事がしづらいんだが……」
「おい、師匠。堅くなりすぎてるぞ。さっきからの話ぶりで大体分かったけど、あなたはいつかはあの古着屋の店に落ち着いて、一緒に物差しを使うつもりなんだろう?ねえ、年が若くて、男前が悪くなくて、正直でよく稼ぐ男を、亭主に持つのって悪い話じゃないでしょ。まあ、そうじゃないのか。あなたは芸人、相手は町人、御家の決まりを破ったわけでもないんだから、そんなにビクビクして隠すこともないだろ。いざとなったら、俺だって親しい仲だから、祝儀に魚でも持ってってお祝いに行こうと思ってるんだ。惚気も交えて構わない、全部正直に話してくれ。俺は黙って聞いてるから」
「どうも申し訳ないです」
「謝ることもねえよ。それもお互いの芝居だから」
「それで、その千次郎って男は、もちろん師匠のことを一番大切に思ってるんだよね。むやみに遊び歩く浮気者じゃないよね?」
「それがどうも分かりませんの」
「確かな証拠はないんですけど、合羽坂の質屋にいた頃からなんか引っかかることがあって、私はなんだか良い気がしないんで、時々それとなく言ってみると、『いいえ、そんなことありません』って、どこまでも否定するんです」

原文 (会話文抽出)

「そこで、師匠。云うまでもねえこったが、その千次郎という息子は早く探し出さなけりゃあ困るんだろうね」
「ええ。一日でも早い方がいいんです。くどくも申す通り、おっかさんがひどく心配しているんですから」
「じゃあ、もう少し深入りして訊きてえことがあるんだが、師匠はどうせここへはいるつもりなんだろうから、おれ達も附き合ってもう一度引っ返そうじゃねえか」
「でも、それじゃあんまりお気の毒ですから」
「なに、構わねえ。さあ、おれが案内者になるぜ」
「ほかじゃあねえが、今の古着屋の息子の一件だが……。おめえも俺にたのむ以上は、なにもかも打明けてくれねえじゃあ、どうも水っぽくて仕事がしにくいんだが……」
「おい、師匠。野暮に堅くなっているじゃあねえか。さっきからの口ぶりで大抵判っているが、おめえは行く行くその古着屋の店へ坐り込んで、一緒に物尺をいじくる積りでいるんだろう。ねえ、年が若くって、男が悪くなくって、正直でよく稼ぐ男を、亭主にもって不足はねえ筈だ。まあ、そうじゃあねえか。おめえは芸人、相手は町人、なにも御家の御法度を破ったという訳でもねえから、そんなに怖がって隠すこともあるめえ。いよいよという時にゃあ、俺だって馴染み甲斐に魚っ子の一尾も持ってお祝いに行こうと思っているんだ。惚気がまじっても構わねえ、万事正直に云って貰おうじゃねえか。おらあ黙って聞き手になるから」
「どうも相済みません」
「済むも済まねえもあるもんか。そりゃあそっち同士の芝居だ」
「そこで、その千次郎という男は、無論に師匠ひとりを大切に守っているんだろうね。無暗に食い散らしをするような浮気者じゃあるめえね」
「それがどうも判りませんの」
「確かな手証は見とどけませんけれど、合羽坂の質屋にいた時分から何か引っ懸りがあるように思われるので、あたしは何だか好い心持がしないもんですから、時々それをむずかしく云い出しますと、いいえ決してそんなことはないと、どこまでもしらを切っているんです」


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