GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「京都の近くにも同じような場所があるらしいっすけど、江戸の絵図にもちゃんと書いてありますから嘘じゃねえっす。この池を帯取りって言うのは、昔からこういう不思議な言い伝えがあるからなんです。だいぶ前のことでしょうけど、この池の上にきれいな錦の帯が浮いてるのを、通りがかった旅人が見つけて、取ろうとして近づくと、急にその帯に巻き込まれて、池の底に沈められちゃうんです。池の主が錦の帯に化けて、通りかかる人を引き寄せるんだそうです」
「でっかい錦蛇でもいたんすかね?」
「そうかもね」
「また別の説では、大きな蛇が水の底に住んでるわけねえだろ。水練が得意な盗賊が水の底に隠れて、錦の帯をエサにして通りかかる旅人を引きずり込んで、金品を奪ってたんじゃねえかって言われてます。まあ、どっちにしても気味悪いところで、昔はすごく広かった池が、江戸時代になってどんどん狭くなって、俺たちが知ってる頃は、岸辺は浅くてドロドロで、夏になると葦が生えてました。でも、帯取りの池っていう怖い伝説が残ってるんで、誰も魚を捕まえに行ったり、泳いだりしなかったみたいです。そしたらある時、その帯取りの池に女の帯が浮いてたってんで、みんなビビって大騒ぎになったんすよ」
原文 (会話文抽出)
「今ではすっかり埋められてしまって跡方も残っていませんが、ここが昔の帯取りの池というんですよ。江戸の時代にはまだちゃんと残っていました。御覧なさい。これですよ」
「京都の近所にも同じような故蹟があるそうですが、江戸の絵図にもこの通り記してありますから嘘じゃありません。この池を帯取りというのは、昔からこういう不思議な伝説があるからです。勿論、遠い昔のことでしょうが、この池の上に美しい錦の帯が浮いているのを、通りがかりの旅人などが見付けて、それを取ろうとしてうっかり近寄ると、忽ちその帯に巻き込まれて、池の底へ沈められてしまうんです。なんでも池のぬしが錦の帯に化けて、通りがかりの人間をひき寄せるんだと云うんです」
「大きい錦蛇でも棲んでいたんでしょう」
「そんなことかも知れませんよ」
「又ある説によると、大蛇が水の底に棲んでいる筈はない。これは水練に達した盗賊が水の底にかくれていて、錦の帯を囮に往来の旅人を引き摺り込んで、その懐中物や着物をみんな剥ぎ取るのだろうと云うんです。まあ、どっちにしても気味のよくない所で、むかしは大変に広い池であったのを、江戸時代になってだんだん狭められたのだそうで、わたくしどもの知っている時分には、岸の方はもう浅い泥沼のようになって、夏になると葦などが生えていました。それでも帯取りの池という忌な伝説が残っているもんですから、誰もそこへ行って魚を捕る者も無し、泳ぐ者もなかったようでした。すると或る時、その帯取りの池に女の帯が浮いていたもんだから、みんな驚いて大騒ぎになったんですよ」