GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「河童かカワウソじゃなくて。魚にやられたんだ。俺もびっくりしたよ」
「いつものように堤を降りて、2人で並んで釣ってると、為さんが小声で掛かったって言ったんだけど、なかなか引き寄せられねぇ。よっぽど大きいらしいから、跳ねられないように気をつけろよって言ったんだけど、真っ暗だからよく見えねぇ。それでもどうにかこうにか騙し騙し、手元まで寄せたみたいで、為さんが手網を持って掬おうとした途端に、暗かった水面が急に明るくなって、なんか知らねぇけど金みたいにピカピカ光るものがあると思ったら、でかい魚が跳ね上がって、為さんはあっという間に飲み込まれちまったんだ。俺もびっくりして助けようとしたけど、もう手遅れ。暗いし、この前の雨で水かさが増してて。どうにもならねぇよ。俺も途方に暮れて、下流の方まで流されていけばどこかの岸に泳ぎ着くかもって、暗い堤の下を探りながらどんど橋の堰き止めまで行ってみたけど、真っ暗で水の音がドンッドン聞こえるばっかりで、為さんが上がってくる気配はない。為さんもそれなりに泳げるんだけど、なにしろ瀬が早すぎてどうにもならなかったみたいだ」
「呼べば良かったんじゃないの……」
「それができないんだよ」
「これが他の場所なら、為さんを呼ぶだけじゃなくて、大声で近所の人を呼んで、なんとか助けられたかもしれないけど、いかんせん場所が悪い。デカイ声なんて出したら、俺も危ない。もうこうなったら仕方がねぇ、これも為さんの運の悪さだと諦めて、そのまま帰ってきたんだけど、どうも気味が悪い。ああ、嫌な思いだ」
「ほんと嫌だね」
「だから、俺がやめとけって言ったのに、お前らが行きたがったからこうなったんだ。為さんのことだけじゃないよ、うちにも嫌なことがあったの」
「何が起こったの」
「まさか為さんが来たんじゃあるまいな」
「為さんが来るわけないじゃん。別に妙な女が来たんだよ」
「それって、なんか変じゃない?その女って一体何者?」
「ねぇ、もしかして川から出てきたんじゃないかしら」
「うん。俺もそう思う。昨日釣ってきたのはオスの鯉で、そのメスが取り返しに来たんじゃないかな」
「返してやったからいいようなものだけど、なんか気持ち悪いね」
「どうも変だよな」
「外では為さんがあんな目に遭って、うちには変な女が来る。どう考えても、あの紫色の鯉が俺たちに祟ってるみたい。悪いことはできないよ。もう、もう、これに懲りて釣りは止める」
「それにしても、越前屋はどうするの。知らんぷりもできないでしょ?」
「それ俺も考えてるんだ。俺と一緒に行くことは、おかみさんも知ってるからな」
「だから、知らん顔はできないって言ってるんだよ。お前、これから行って早く知らせておいでなさいよ」
「今から行くのか」
「だって、ほっとけないじゃないか。夜が更けてもすぐそこだから、早く行っておいでよ」
「あいつら何やってんだろ」
原文 (会話文抽出)
「為さんが引き込まれた……。河童にかえ」
「河童や河獺じゃあねえ。魚にやられたんだ。おれも驚いたよ」
「いつもの通りに堤を降りて、ふたりが列んで釣っていると、やがて為さんが小声で占めたと云ったが、なかなか引き寄せられねえ。よっぽど大きいらしいから跳ねられねえように気をつけねえよと、おれも傍から声をかけたが、なにしろ真っ暗だから見当が付かねえ。それでもどうにかこうにか綾なして、だんだんに手元へひき寄せたらしく、為さんは手網を持って掬いあげようとする。その途端に、今まで暗かった水の上が急に明るくなって、なんだか知らねえが金のようにぴかぴかと光ったものがあるかと思うと、大きい魚が跳ねかえる音がして、為さんはあっという間もなしにすべり込んでしまったので、おれもびっくりして押えようとしたが、もういけねえ。暗さは暗し、このごろの雨つづきで水嵩は増している。しょせん手の着けようもねえので、おれも途方に暮れてしまったが、それでも川下の方へ流されて行くうちには、どこかの岸へ泳ぎ付くことがあるかも知れねえと、暗い堤下を探るようにして、どんどんの堰の落ち口まで行ってみたが、真っ暗な中で水の音がどんどときこえるばかりで、為さんの上がって来る様子はねえ。為さんもひと通りは泳げるんだが、なにしろ馬鹿に瀬が早いからどうにもならなかったらしい」
「おまえさん、呼んでみればいいのに……」
「それが出来ねえ」
「これがほかの所なら、為さんを呼ぶばかりじゃあねえ。大きい声で近所の人を呼んで、なんとか又、工夫のしようもあるんだが、なにをいうにも場所が悪い、うっかり大きな声を出してみろ、こっちの身の上にもかかわることだ。もうこうなったら仕方がねえ、これもまあ為さんの運の悪いのだと諦めて、おれもそのまま帰って来たが、どうも心持がよくねえ。ああ、忌だ、忌だ」
「ほんとうに忌だねえ」
「だから、あたしがお止しと云うのに、お前さん達が肯かないで出て行くからさ。為さんのことばかりじゃあない、内にも忌なことがあったんだよ」
「どんな事があったんだ」
「まさか為さんが来た訳じゃあるめえ」
「為さんが来るものかね。ほかに何だかおかしい女が来たんだよ」
「そりゃあどうもおかしいな。その女はいってえ何者だろう」
「ねえ、もしや川から出て来たんじゃ無いかしら」
「むむ。おれも何だかそんな気がする。ゆうべ釣って来たのは雄の鯉で、その雌が取り返しに来たんじゃあるめえかな」
「返してやったからいいようなものだが、なんだか気味が悪いね」
「どうも変だな」
「外では為さんがあんなことになる。内ではそんな女が押し掛けて来る。どう考えても、むらさきが俺たちに祟っているらしい。まったく悪いことは出来ねえ。もう、もう、これに懲りて釣りは止めだ」
「それにしても、越前屋の方はどうするの。まさかに知らん顔をしてもいられまいじゃないか」
「それをおれも考えているんだ。おれと一緒に行くことは、おかみさんも知っているんだからな」
「それだから知らん顔はしていられないと云うのさ。おまえさん、これから行って早く知らしておいでなさいよ」
「これから行くのか」
「だって、打っちゃっては置かれまいじゃないか。夜が更けても直ぐそこだから、早く行っておいでなさいよ」
「あの人はなにをしているんだろう」