「プランク定数の測定」レポートWeb版
1)実験目的
本実験は光電効果を利用してプランク定数を求めることが目的である。
2)実験の原理
理論的に考えれば、振動数νの光が光電面に入射したとき、電子は
K=hν−W(但しh:プランク定数、W:仕事関数)に与えられる運動エネルギーKで光電面から飛び出す。光電面に対してコレクターに負の電圧−VをかけるとK=hν>eVの電子のみコレクターに達し、光電流となる。eVm=K=hν−Wが成立する逆電圧−Vmをかけると、光電流は零になる。よって、二つの振動数ν1、ν2においてそれぞれの逆電圧Vm1、Vm2を測定すれば、h=e(Vm1-Vm2)/(ν1-ν2)でプランク定数が定まるはずである。
しかし、実際は逆電圧−Vmをかけても光電流は観測される。これは、有限温度においては、エネルギーEF(:Fermiエネルギー)近くの伝導電子が熱エネルギーで励起され、EF+ΔEのエネルギーをもつ電子が存在するからである。この電子は光エネルギーhνを得て、逆電圧−Vmをかけられても運動エネルギーΔEを依然所有し、コレクターに到達し、電流として観測される。
そこで今回、以上の問題を解決するために次にあげる二つの方法を用い、プランク定数を測定した。
a)阻止電圧法
光電流値が十分に低い値であるとき、これを実効的に零電流と見なし、電圧を電子の最大エネルギーKmaxに対応しているとして阻止電圧Vsとする。つまりKmax=eVsとする。いろいろな振動数の光について、その阻止電圧Vsをもとめ、関係:eVs=hν−W からプランク定数hを求めた。
b)漸近法
光電面から垂直に飛び出しコレクターに達する電子電流Iphotoは、次式で与えられる。
Iphoto=AT2F(x)
但し、A:ν、つまりVmに依存する量 T:絶対温度
x=e(Vm−V)/kBT (kB:ボルツマン定数)
F(x)=
= ,
この式において、逆電圧が十分大きくe|Vm−V|≫kBTのとき、
Iphoto∝exp[e(Vm-V)/kBT]となり、log(Iphoto)∝Vとなる。光電面の温度があまり高くならないならば、漸近線から外れる点の電圧が温度T=0(K)のときの光電子の最大運動エネルギーeVmを近似している。いろいろな振動数の光について、Vmをもとめ、関係:eVm=hν−W
からプランク定数hを求めた。
3)実験装置
本実験では以下の装置を使用した。
( 1)プランク定数測定装置(HA-30)
( 2)直流電圧・電流計(KU-1AV)
( 3)リード線 4本
尚、これらの装置は図 1 (略)のように接続した。
4)実験方法
測定準備:分光器系の準備
( 1)POWERスイッチ及びLAMPスイッチがOFF状態であることを確認した。
( 2)プラグをコンセントに差し込み、LAMPスイッチのみをONにした。
( 3)入口スリットを全閉状態から半回転ほど開けた状態にした。また分光器系の黒いカバーケースをはずした。
( 4)目盛板の0度を標線にあわせた。目盛板の角度を変えてスリット部分のスペクトルの色が変化することを確認した。確認が終わったら、黒いカバーケースを元の位置に戻した。
( 5)LAMPスイッチをOFFにした。その後で、実験装置パネル前面の端子と、光電流用μA計、逆電圧用V計をそれぞれつないだ。
( 6)POWERスイッチをONにし、約20分程度ウォーミングアップした。
( 7)同時に電流電圧計もプラグをコンセントも差し込み、POWERスイッチをONにし、同様に約20分程度ウォーミングアップした。
:光電流系の準備
( 1)パネル上面のCOLLECTOR VOLTAGEのダイヤルを回し、左いっぱいで0.00V、右いっぱいで3V以上の電圧が表示されることを確認した。
( 2)目盛板の0度を標線にあわせた。
( 3)COLLECTOR VOLTAGEのダイヤルを右に回し、3V以上の逆電圧をかけた。
( 4)LAMPスイッチをONにし、入口スリットを全閉状態にした。
( 5)ZERO ADJ.のダイヤルで、電流が0.00μAとなるよう調節した。
( 6)COLLECTOR VOLTAGEのダイヤルを左いっぱいに回し、逆電圧を0Vにした。
( 7)入口スリットをゆっくり開き、光電流を99.50ないし100.50μAにした。電流値がl分以上その範囲から外れないことを確認した。
( 8)逆電圧のダイヤルを十分ゆっくりとまわして3Vにし、再びZERO ADJ.のダイヤルで、電流が0.00μAを指示するように調節した。電流値が1分以上変化しないことを確認した。
測 定
( 1)逆電圧を3Vから下げながら、光電流が0.00μAから立ち上がるところを探した。
( 2)光電流を立ち上がるところからゆっくり下げながら、光電流が立ち上がるときの逆電圧から0.01V間隔で(光電流が10μA以上では0.05V間隔で)、逆電圧の値と対応する光電流の値を記録した。
( 3)目盛板で角度を-2度ずつ変えて、波長539nm(-2度)、289nm(-4度)、437nm(-6度)についても同様に逆電圧と光電竜の値を測定した。なお、此の際、各波長の測定の前に前述の「光電流系の準備」を行った。
5)測定データ
表
1〜 4 各波長での逆電圧と光電流の対応 (略)
図
2 各波長における逆電圧と光電流の対応(片対数グラフ) (略)
図 3 波長と阻止電圧Vs、最大電圧Vmとの関係 (略)
各波長において測定された、逆電圧と光電流の対応のデータは表 1,表 2,表
3,表 4の通りである。
これらのデータを片対数グラフにしたのが、図 2であり、阻止電圧法に用いる実効的に零電流である、
各波長での光電流0.05μAの点を〇印で記し、漸近法で用いる波長589nmの片対数グラフの漸近直線と波長589nmのグラフとの離脱点、及び波長589nmのグラフの漸近直線に平行にとった各波長での漸近直線とそれぞれの波長のグラフとの離脱点を、□印で記した。
各波長での〇印の逆電圧の値が阻止電圧Vsであり、□印の逆電圧の値が最大電圧Vmである。各波長におけるVs、Vmの値を表にしたのが、表 5であり、それをグラフにしたのが図 3である。なお、図
3内の直線を引くのには最小二乗法を用いており、直線の式は表 6に示すとおりである。
表 5:各波長における阻止電圧Vs、最大電圧Vmの値
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波長(×1014Hz) |
Vs(V) |
Vm(V) |
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5.09 5.56 6.14 6.86 |
0.624 0.727 0.923 1.171 |
0.414 0.577 0.813 1.141 |
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表 6:図 3の直線の式
y=a+bxとして〔x:周波数(Hz),y:電圧(V)〕
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a |
b |
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破線(阻止電圧法) 実線(漸 近 法) |
-0.997±0.111
-1.7±0.1 |
(3.14±0.19)×10−15 (4.1±0.2)×10−15 |
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6)解析および結論
図 3により光の周波数と阻止電圧との関係がeVs=hν−W、また同じく周波数と最大電圧との関係がeVm=hν−Wを満たしていることが確認された。表 6に示された数値を用いて、プランク定数h及び仕事関数Wを計算すると、表
7のようになり、これが結論である。
表 7:計算結果
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h(J・s) |
W(eV) |
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阻止電圧法 漸 近 法 |
(5.03±0.30)×10−34 (6.6±0.3)×10−34 |
0.997±0.111 1.7±0.1 |
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7)検討・考察
実験過程及び測定操作において不適切であった点は、光電流系の準備( 7)が教科書には「入口スリットをゆっくり開き、光電流を100.00μAにした。電流値がl分以上変化しないことを確認する。」となっていたが実際は「入口スリットをゆっくり開き、光電流を99.50ないし100.50μAにした。電流値がl分以上その範囲から外れないことを確認」するに留まったことである。これは100.00μAちょうどに合わせるのに非常な困難を伴い、とうとうできなかったからである。
有効数字は計算過程に従って考えると、阻止電圧法で3桁、漸近法で2桁である。
hの精密な値は6.63×10−34J・sであるから、相対誤差を考えると、表 8のようになる。
表 8:相対誤差 (単位:%)
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最確値において |
最大 |
最小 |
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阻止電圧法 漸 近 法 |
24.1 0 |
28.7 5 |
19.6 0 |
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漸近法による測定結果には問題がないと思われる。阻止電圧法によって得られた値に
は大きな誤差が出た。約25%も誤差が出るとなると、問題は深刻である。
誤差の要因は、上述の点がまずあげられる。漸近法は結果としてうまくいったが、誤差の相殺によるとも考えられるので同法のみに関わるものを示すと、漸近線の引き方そして漸近直線とグラフとの離脱点のとり方が考えられる。阻止電圧法に関しては、実効的な零電流を0.05μAに設定したのが正しいのか疑問が残り、また誤差の一因となっていると思われる。
[教科書の検討課題に対する回答]
光電効果以外を利用してプランク定数を測定する方法は以下の二種類がある。
一つは連続X線の最短波長を使う方法である。この方法を用いた測定実験は1915年デュエインとフントによりはじめて行われた。原理は電圧Vで加速した電子を金属に衝突させて得たX線のうち、連続X線においては入射電子のエネルギーの一部または全部がX線の量子のエネルギーに変わったものと考えられる。電子の運動エネルギー(1/2)・mvmax2=eVが全てX線の量子のエネルギーに変わったとするとこれはhνmaxに等しいからeV=hνmaxが成立する。最大振動数νmaxは存在し、νmax=c/λminであるから、eV=hc/λminが成り立つ。
よってλmin,Vを測定すれば、既知値c,eを用いてhが求められる。
もう一つの方法は、もっとも精密な方法で、ジョセフソン効果を利用したものである。
二枚の超伝導体(Pb)で1~2nmの絶縁層(PbO)を挟み込み、液体ヘリウム温度でマイクロ波を当てながら接合部に流す直流電流を増加していくと、接合部の両端の直流電圧が階段状に増加する。その一段あたりの電圧は等しくV=hν/2eである。
よって、ν,Vを測定すれば、既知値eを用いてhが求められる。
◆参考文献
西條 敏美著『ブルーバックスB-1144 物理定数とは何か 自然を支配する普遍数のふしぎ』講談社,1996/10/20,pp.241〜245
<以上>
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