「フランクとヘルツの実験」レポートWeb版
1)実験目的
本実験は電子とネオン原子の非弾性衝突から、原子が離散的なエネルギー状態をもつことを確認し、ネオン原子の最低励起エネルギーを求めることを目的とする。
2)実験の原理
Bobrの量子仮説の直接的な実験的検証を行ったのは、FrankとHertzである。彼らの実験では、原子の電子状態を遷移させるのに電子ビームをもちいた。E0を原子の基底状態のエネルギー、E1をすぐ上の励起エネルギーとして、電子ボルト単位でeV0、eV1とあらわす。原子の最低励起エネルギーをeVEとすると、 VE=V1-V0 が成り立つ。
<測定原理>
図 1のようにネオンを封入した4極管でカソード Kより放出される電子をグリッドG1,G2間で加速する。加速電圧VACCを 0 V から増していくと、最初、電子はネオン原子と衝突してもほとんどそのエネルギーを失うことは無くプレーとPに到達する。このときKから引き出される電流は単調に増大する。ただし、Pに約
6 V の逆電圧をかけているため、加速電圧がそれ以上にならないとプレート電流は増加しない。
VACCにより電子のエネルギーがeVE付近になると非弾性衝突を起こし始め、電子のエネルギーはネオン原子の励起の為に失われる。Pには逆電圧がかかっているから、逆電圧に対応するエネルギーを保有していない電子はPに到達できず、プレート電流は急減する。
さらに電圧を上げて行き、初期に得たエネルギーから非弾性衝突により失うエネルギーを引いた残りのエネルギーがプレートの逆電圧に対応するエネルギーよりも大きくなってくると、再び電流は増大する。しかし、G2に達する前の電子のエネルギーがeVE以上に達すると、また非弾性衝突により電子はエネルギーを失い、電流は減少する。この現象が繰り返される。
つまり、加速電圧VACCがVE毎にプレート電流は極大値を取ることとなる。
<励起発光について>
本実験の赤色の励起発光はNe原子が電子との非弾性衝突により過剰に励起され、不安定な3pの順位にいたり、その後
3p→3s に遷移する際の発光である。理論的には加速電圧がプレート電流の極大値から約2V大きくなったときから観測される。
3)実験装置
実験で用いる装置は以下のとおりである。
(
1)Franck-Hertz実験装置(京都大学-KKエクレア社協同制作 No.5/8)
( 2)直流電圧計:加速電圧測定用
以下、V計と表す
( 3)直流電流計:ヒータ電圧測定電圧測定用
以下、A計と表す
( 4)直流マイクロアンペア計:ヒーター電流測定用
以下、μA計と表す
以上の装置は図 1にしたがって結線される。
4)実験方法
測定準備:
( 1)全装置を結線した。
(
2)Franck-Hertz実験装置のパネル正面のヒーター電流用と加速電圧用のダイヤルが左一杯に回っていることを確認した。
(
3)Franck-Hertz実験装置の電源コードをコンセントに差し込み、POWERスイッチをONした。このとき、ヒーター電流が400mAほど流れていることを確認した。
( 4)約1分間、ウォーミングアップした。
( 5)μA計の零点調節をした。
( 6)加速電圧VACCを約90Vに設定し、ヒーター電流を徐々に上げ、プレート電流IPが60ないし80Vになるよう調節した。IPの値が変位しなくなるまで再度ウォーミングアップした。このとき設定したヒーター電流IHの値を記録した。
( 7)VACCを0に戻した。
測定:
( 8)VACCを0Vからゆっくり上げながらIPが複数個のピークをもつことを確認した。
( 9)VACCを0Vより93Vまで段階的に上げ、VACCに対応するIPの値を記録した。
( 8)で観測したピーク以外の範囲: 1V/回
( 8)で観測したピーク付 近
:0.2あるいは0.5V/回
(10)測定者を代え、(
8)、( 9)を繰り返し行った。
(11)遮光筒を接続し、ネオン管の観測窓からさしこみ、VACCを変化させて同心円状の励起発光リングのパターンを観測し、同リングのVACC依存性を定性的に考察した。
5)測定データ
測定されたデータは、表 1, 2である。このデータをグラフにプロットしたのが図
2, 3である。
また、 IH=0.815
A である。
励起発光については、以下のそれぞれのリングパターンがはじめて現れるVACCが表 3のように測定された。
リングパターン 1: | 一円 | リングパターン 3: | 同心三円 | |
2: | 同心二円 | 4: | 同心四円 |
6)解析及び結論
図 2, 3よりIPの極大値に対応するVACCを小さい順に V1,V2,V3,V4 とすると、その値は表 4のようになる。また次式により最低励起エネルギーeVEのうちVEが求められる。これも併せて表 4に記し、結論とする。
7)検討と考察
表 3と表 4より、励起発光リングのパターンのVACC依存性を定性的に考察する。まずリングパターンがはじめて現れるVACC(表 3)から、IPの極大値に対応するVACC(表 4)の1回目、2回目の平均値 <Vi> を引いた値を、表 5に記す。なお、Viとリングパターンi
(i=1,2,3,4)を対応させる。
表 5より分かることは、
新たな励起発光リングが現れはじめる加速電圧VACCは、IPの極大
値に対応するVACCより大きい。またVACCが高いほどの差は小さくなる。
と、いうことである。
実験過程及び測定操作において不適切であった点は、図 3(測定二回目)の最初の
IP=10 付近現れる不自然な増加の原因にあると思う。ここで報告人と協同実験者はV計、μA計のレンジを切り替えた。その際に電源を切らなかったのが不適切な点だろう。
また、有効数字は、3桁である。
VEの精密な値は 16.7 V であるから、測定値の相対誤差は表 6のようになる。
以上より、前半の実験(VEの計測)の妥当性は高いと考える。
前半について、誤差の要因は、実験過程及び測定操作において不適切であった点以外には、アナログ計器による偶然誤差以外、思いつかない。
後半の実験(励起発光リングの観測)については、理論的には「実験の原理」に記したように「加速電圧がプレート電流の極大値から約
2V 大きくなったときから観測される」はずだったが、RP3,4ではそれ以下でも励起発光リングが観測された。これは新たな励起発光リングの発生をどの時点と見るかの問題であろう。少なくとも報告人は外周の赤色円がぼやけて、幅広くなった赤色円の中央に暗円が生じた──外と内に分離する箇所が生じた──点で新たな励起発光リングの発生とみた。これが正しくなかった可能性がある。正しかったとしても、生じた瞬間をとらえるのはリングの数が増えるにつれ困難になるし、また生じるものがあらかじめ分かっていながら、かすかな赤色円の生じた瞬間をとらえようと目をこらすと、付近でどうしても頭の中で勝手に「生じた」と感じてしまう。
<以 上>
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