国営諫早湾干拓事業について

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国営諫早湾干拓事業について

京大全学共通,2000通年,環境政策論I-前

[本文]

* * *

1.事態の推移

諌早湾の干拓は数百年前から続けられてきており､宿命的なものである〔1:参考文献番号､以下同じ〕(付録1参照web版での公開は著作権上の問題性が高いため停止しました02/ 5/25)｡しかし本干拓はこれまでのものとは違う大規模なものであり､自然の許容範囲を超え環境破壊につながっているとされている｡

1952年､終戦直後の食糧難を背景として､当時の長崎県知事が｢長崎大干拓構想｣を表明する｡主目的は､米の増産であった〔2〕〔3〕｡その後､計画は､1970年､｢長崎南部地域総合開発計画｣に引き継がれる〔2〕｡その基礎であり､諌早湾干拓も含まれる長崎県長期開発構想(1971)は､当時の列島改造の影響を受けたものであった〔4〕｡また､1969年､国が水田開発抑制に政策転換したこと〔2〕の影響もあろう｡

1982年､同計画は廃止となる〔3〕が､同年｢国営諌早湾干拓事業｣<注1>が開始される｡主目的は農地造成と防災である｡この地域で1957年7月25日の長崎諌早水害(表1参照)をはじめ多くの水害の発生している(詳細は表2)ことが背景である｡しかし､防災効果には疑問の声が多い｡当時既に発行されていた『諌早水害誌』(1963年3月5日､諌早市役所発行)には本明川(図1参照web版での公開は著作権上の問題性が高いため停止しました02/ 5/25)の河口潮位の変動が川の水位に与える影響は河口から 2 km 以上ではなくなること<注2>が書かれており､これは河口から 3.5 km 以上離れている諌早市内への影響はない事を示す〔5〕｡農林水産省の設置した｢諌早湾防災対策検討委員会｣も､1983年､防災効果に期待できないと指摘した〔2〕｡だが､防災は宣伝文句として使われ､防災に期待し事業に賛成している諌早市民も多い｡なお､この事業は土地改良法に基づいており､1988年3月には公有水面埋立法の承認を受けており､また計画変更が幾度か行われているが､全ての計画はそれら法律に基づいている〔6〕｡事業費については表3に記す｡事業主体は農林水産省だが､建設省が本明川上流にダムを建設しており､ダム単独でも長崎諌早水害規模の洪水を防ぐことが可能だという〔7〕｡しかし､1986年の環境影響評価(1991年再度行う)〔8〕を経て､同年起工､1997年4月14日には潮止が行われ､2006年の竣工に向け事業は進められている｡〔2〕

2.推移への評価

この事業の推移には問題点がある｡それは､本干拓の防災効果への疑問が非常に強いにも関わらず､防災に期待し事業に賛成している住民が多いことである｡

3.解決策

現在の状況を踏まえたうえでの解決策は､国､県の情報公開を徹底しながら､早急な長崎県､長崎県民による見直し(もちろん事業続行も選択肢の一つとして)をすることである｡造成農地は畑作､牧畜のため使われるため中止されても国家戦略への影響が小さいことがあり､適切な事業費の返還が行われれば県､県民による決定は可能であろう<注3>｡また耕作されていない農地は表4よりかなり有ることが分かり〔9〕､農民の意志をくじくことはない｡既に潮止堤防は完成しているので､高潮､塩害対策は可能〔10〕､水防はほとんど全てを建設省本明川ダムによって行えばよい｡これで災害対策は可能である｡

県､県民により事業中止の判断が出た場合は､一部事業費の国への返還､ただ｢干拓の宿命｣はあるので､その時点での完成部分だけを陸地として整備を急ぎ<注4>､そののち水門の非常時以外の解放をすればいいと思う｡干拓地造成は小規模に続けていけばいい｡干潟が復活するかどうかだが､可能性はないわけではない〔11〕｡

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付表・注・付録・付図

表1: 長崎諫早水害の被害 〔3〕

死者・行方不明者	992人
負傷者	3,860人
家屋全壊・流失	1,564棟
床上浸水	24,046棟

同水害による被害の総和（諫早市及び周辺市町村以外の被害を含む）

表2:住居の浸水被害が記録された水害（1978年～1995年）〔12〕

年月日	総降水量(mm)	時間最大降水量(mm)	床上浸水(戸)	床下浸水(戸)	死亡者(人)
S53 8/1から8/6	129	36	7	202	記録なし
S57 7/23及び24	492	99	930	1,565	4
S60 8/28から9/2	158	69	26	40	記録なし
S62 7/14から21	481	39	（0）	（7）	（0）
S63 5/3から7日	325	87	0	30	記録なし
S63 7/17及び18	319	75	（6）	（184）	（0）
H2 6/28から7/3	356	38	（1）	（65）	（0）
H3 6/29から7/5	267	49	5	126	0
H4 8/12から15	283	54	0	24	0
H7 6/30から7/7	499	26	0	2	0
H7 7/11及び12	203	32	0	12	記録なし

備考

一　諫早市、森山町、高来町、吾妻町及び愛野町を対象にとりまとめた。

二 　浸水戸数及び死亡者数は、建設省河川局「水害統計」、長崎県消防防災課「災害報告書」及び関係市町からの聞き取りによる。

三　 降水量は、諫早地域気象観測所のデータである。

四　床上浸水、床下浸水及び死亡者の欄の（  ）は諫早市のみを示す。

五　排水ポンプ稼動時間は、記録の残っているポンプ場のうち、稼動したポンプ一台当たりの平均稼動時間（十分未満の端数は四捨五入）を示す。

(高木注:排水ポンプ稼働時間は省いた)

六　この他、降水量との関係はあきらかでない浸水被害の記録はある

表3: 事業費　　　〔6〕

約七割は国の負担

表4: 長崎県の耕地面積の変化　　〔13〕（各年2月1日）

	(a)
1985年	5,405,358
1990年	4,741,443
1995年	4,140,498

注1:当初､｢諌早湾防災干拓事業｣と呼ばれていたことが多数文献(〔3〕,〔14〕など)に書かれているが､国は否定している〔12〕｡

注2:収斂によって影響がなくなる｡また､流量 1,450 m³/s (長崎諌早水害時の河口付近の流量 1,900 m³/s に0.764を乗じた値で､80年に一度の確率で生ずる流量)での不等流計算による計算結果である｡

注3:国が報復措置を行わないことを希望する｡

注4:2003年度から中央干拓地の西側工区､小江干拓地から一時利用が予定されている〔6〕。

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参考文献一覧

ウェブページはすべて2000年8月27日確認

〔1〕長崎県農林部諫早湾干拓室:「過去のContents(平成9年6月版)」
『1.干拓は諌早湾の宿命』,(1997.6),
http://www.us1.nagasaki-noc.ne.jp/~nagasaki/isakan/old/old-0100.html

〔2〕MATSUMOTO Tetsuya:『諌早湾を救え!』,

http://www1.sphere.ne.jp/access-t/environment/isahayawan.html

〔3〕(株)三菱総合研究所:『都市災害100年　長崎諫早水害』,(1998),
http://xing.mri.co.jp/research/research/bousai/isahayasuigai.html

〔4〕日本科学者会議長崎支部:「諌早湾干拓問題」『長崎南部地域総合開発計画の廃止を求める決議』,(決議1977. 5.14)
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/jsan/nansou.html

〔5〕布施厚:「長崎自然史仮想博物館　諫早湾と防災」『収斂に関する『諌早水害誌』の記述』,(1999),
http://www.fsinet.or.jp/~hoteia/isahaya/flood/shuren/shuren.html

〔6〕長崎県企画部企画調整課:「長崎新時代｢活気あふれる長崎県づくり｣」『諌早湾干拓事業』,(2000),
http://www.us1.nagasaki-noc.ne.jp/nagasaki/New_Naga/093.html

〔7〕建設省九州地方建設局長崎工事事務所:「本明川にまつわる情報」
『ダム事業』,http://www.qs.moc.go.jp/nagasaki/office/kasen/damu.htm

〔8〕長崎県農林部諫早湾干拓室:「諫早湾干拓事業」『事業の概要』, 1 ,(2000),
http://www.us1.nagasaki-noc.ne.jp/~nagasaki/isakan/jig/jig-0100.html

〔9〕櫻井よしこ:『日本の危機』,(新潮文庫,2000),p.227

〔10〕布施厚:「長崎自然史仮想博物館　諫早湾と防災」『佐賀県有明海沿岸の防災対策　平常時は開放されている水門』,(2000),
http://www.fsinet.or.jp/~hoteia/isahaya/saga/sagasuim.html

〔11〕豊かな汽水域を後世に活かす市民会議:『「市民の会」の構想/干拓施設を活かして使う』,(2000),
http://sula0013.soc.shimane-u.ac.jp/yutaka/yutaka04.html,
[注: 2000年8月1日付の「西村びんの議員活動報告」の記事より，2000年7月20日に行われた八束町の水口憲哉助教授（東京水産大学資源維持研究室）による講演会の記録]

〔12〕「諌早湾・干拓事業　公式資料集」『衆議院議員秋葉忠利君外四名提出「国営諫早湾干拓事業」に関する質問に対する答弁書』,(1997.7.22回答),
http://www.cityfujisawa.ne.jp/%7E559-mori/isahaya/seifu/isanswer.html
[注:〔14〕に対する回答]

〔13〕長崎県統計課:「長崎県統計年鑑」平成11年版(第46版)
『農林水産業　経営耕作農地』,(1999),
http://www.us1.nagasaki-noc.ne.jp/~nagasaki/tokeika/nennkan_data/045-087/049.XLS

〔14〕「諌早湾・干拓事業　公式資料集」『「国営諫早湾干拓事業」に関する質問主意書　』, (1997.6.18衆院提出),
http://www.cityfujisawa.ne.jp/%7E559-mori/isahaya/seifu/isproblem.html

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<以上>

〔4〕日本科学者会議長崎支部:「諌早湾干拓問題」『長崎南部地域総合開発計画の廃止を求める決議』,(決議1977. 5.14) http://ha2.seikyou.ne.jp/home/jsan/nansou.html

〔4〕日本科学者会議長崎支部:「諌早湾干拓問題」『長崎南部地域総合開発計画の廃止を求める決議』,(決議1977. 5.14)
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/jsan/nansou.html