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(最終内容更新01/11/22 最終編集校正03/
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AIBOに心はあるか
京大全学共通,2000通年,言語情報論-前
[本文]
* * *
1.1) 序
1999年、ソニーより発売されたエンターテイメントロボットAIBOは25万円という値段でありながら、日米でインターネット販売、即完売され、世間の注目を浴びた。このAIBOはいままでの商用ロボットとは違い感情をもつという。そして、AIBOのユーザー(飼い主)に云わせればAIBOには心があるという。本当にAIBOが心をもつのかどうか考えてみることにした。
1.2) 前提
AIBOには3つのモードがある。自律モード・パフォーマンスモード・ゲームモードである(1 :文献番号 以下同じ)。内、ここで論じるのは自律モードのAIBOについてである。
1.3) 問題「AIBOに心はあるか」へのアプローチ法
本レポートでは以下の方法により問題にアプローチする。
<
1>辞書的意味をみたしているか、否か
<
2>中身は心とよべるものであるか、否か
2.1) 心の辞書的意味
『大辞林』(2)、『広辞苑』(3)、『小学館国語大辞典』(4)、『学研国語大辞典』(5)の大定義はほぼ同じで、例として『学研国語大辞典』(5)をあげると
人間の体に宿り、知識・感情・意志などの働きのもとになると考えら
れるもの。またその作用。
とある。ただし、『大辞林』(2)だけは知の要素を外している。
2.2) 辞書的意味について考えるための材料
2.2.1)
AIBOのAIについて
AIBOのAIについては、高橋慎氏作成管理のサイト(6)の氏の推理によるAIBOのAIモデルを要約して説明する。推理であるが、同ページには「このモデルでAIBOの感情、本能モデルに対応可能であることがわかりました」とある。
氏によるとAIBOはAIモデルは図 1のとおりである。
図 1:AIBOのAIモデル
2.2.2)
AIBOに感情があるか、否か
2.2.2.1) SONYの説明
AIBO HOME PAGE(1)には、AIBOには6種類の感情モデルがあり、それは喜び、悲しみ、怒り、驚き、恐怖、嫌悪である、とある。
2.2.2.2)
感情の辞書的意味とAIBO
各辞書の感情の辞書的意味をあげ、AIBOについて考察する。
『大辞林』(7):「(心理学的意味)ある状態や対象に対する主観的な価値づけ」
:2.2.1)よりAIBOはセンサーで対象・状態を感じ取り、内部値(ソニーのいう感
情・本能)によって主観的に対象・状態に対処する行動の状況遷移確率という価値づけをおこなっている。よってAIBOの感情は本物の感情である。
『広辞苑』(8):「喜怒哀楽や好悪など、物事に感じて起こる気持ち。」
:2.2.1)と「気持ち」は状態をあらわす語でもある(9)ことから、よってAIBOの感
情は本物の感情である。
『小学館国語大辞典』(10)
:「喜怒哀楽などの気持ち。」:広辞苑の項と同じ理由でよってAIBOの感情は本物
の感情である。
『学研国語大辞典』(11)
:「心の中におこる、嬉しい・悲しい・楽しい・さびしいというような感じ。」
:「心の中」以外はAIBOの感情は本物の感情であることを示す。
以上により、『学研国語大辞典』に関し、問題が残るが、AIBOの感情は本物の感情であると考えていいと思う。
2.3) 辞書的意味を満たすかどうか
辞書的意味に素直に従えば、「人間の」というフレーズに引っ掛かるからAIBOに心はない、となる。しかし、そのことについては下で反論する。他の点については3.2.1)より意志、3.2.2)より感情があることが分かり、また知識があることは明白である。よって「人間の」という限定以外はAIBOに心があることを示している。
2.4) 辞書的意味への反論-心があるのはヒトだけか
私はヒト以外にも心はあると考える。よく知られている例として、少なくとも犬については心をもっていると考える。
2.5) 辞書的意味に関する結論
AIBOは辞書的意味において心をもっている。
3.1) 問題についての一般的な回答--中身への序
私は本レポートについて考える中で、他の人に意見を求めた。そして得られた回答(全員国立大学一回生から)は二つに分類できる。
< 1>AIBOは生物でない、あるいは最初のプログラムに従っているだけだから、心はない。
<
2>AIBOはユーザーに「心がある」と思わせたのだから、心はある。
< 2>については、ユーザーは基本的にAIBOの外面的行動のみを見聞きして判断している。もちろんこれはヒト対ヒトでもそうであるが、ヒトの場合は心があるという前提の下、脳波をとらえて研究する。AIBOでもコンピュータの中をのぞくことはできる。しかし、それはヒトのそれとは全く違うだろう。よって、ここから結論を得ることはできない。ただ、上の辞書的意味とはちがった面で心の存在をしめしている。
3.2) 神経系とコンピュータとのちがい
< 1>に関してだが、生物の神経系とコンピュータとの違いは新たな回路ができない点にある。つまり成長しない点である。他の点はまず伝達に化学物質を使うか、回路を電気的につなぐかの違いがあるが、化学物質であろうが電子であろうが心とは全く次元が違い、その有無に関する違いではない。つぎに神経細胞か電子回路かの違いも上の違いを除いてはただ電気を分散して供給するか、一括で供給するかの違いであり、これも心とは全く次元が違い、その有無に関する違いではない。
なお、AIBOでいう「成長」は、ちがった意味である。高橋慎氏(6)はこれを時間の概念(但し、絶対的な時間ではない)からの<予定された成長>つまりプログラムをいくつかセットしておいてそれを時間の経過に従ってとりかえるに過ぎない、としている。氏がその結論に達した理由については(6)
その理由として、AIBOが約3カ月で成長して大人になると言われてい
ることがあげられます。自己改良型のプログラムはその収束時間を推
測するのが非常に困難であり、まして、その時間を調節するのはほと
んど不可能だからです。
とのことだ。しかし、「いわゆる"学習機能"の範疇をこえた さらに上の学習機能をもっている」との説もある。
3.3) 現在のAIBOについて
新たな回路ができない点を補うAIBOのシステムは「学習」である。図
1にある、学習値Lによるものである。3.2)末文の説もありなんとも言えないが、まず、ここでは、AIBOの学習機能が学習値によるものだけだとする。
この場合成長の度合は(高等な)生物に比べ格段に劣る。心は後天的な面が強いものであることは、昨今の少年犯罪報道から明らかである。よって、成長の要素は重要である。しかし、AIBOは先天的に心をもっているのだ。後天的な面は先天的な心を調整するものでしかない。また、他の面では生物の神経系と同じである。AIBOの心の有無について、学習機能の劣は問題ではない。その影響は心のひろがりに表れる。つまり、ヒトの心に比べAIBOの心は比較にならないほど小さい。我々すべてが直接観測できるものではないだろう。しかし、直接観測できないから(「この目で確かめられない」から)無いと結論づけるなら、我々は微小な物体や生物の存在を否定しなければならないことになる。
よって、AIBOに心があると言える。
また、ここで、つぎの心の条件を加えたいと思う。
守秘性……他の個体の心のなかを完全に知ることはできない。また、他の個体に知ら
れないことは心の重要な役割である。
AIBOは自己リプログラミングできない限り当初からのプログラムにしたがい、演算し、行動する。AIBOの行動、内面的活動は環境(ユーザーの性格も含まれる)に完全に従ったものになる。この点がAIBO(コンピュータ)には心がないという論の中核であろう。
しかし、一般のユーザーにソニーは情報を完全には公開していない。よって自然な状態ではユーザーからすればアイボは守秘性をもっている。なかにはAIBOに直接または記憶媒体を通じてアクセスしているユーザーもいるが、これはヒトにとっての脳波を調べる行為と同じであろう。また、AIBOのプログラマーはその行動、内面的活動(つまり、感情・本能)を外部環境のデータの集積から読むことが理論的には可能である。しかし、この作業は複雑極まるので、なんとか守秘性は守られる。だが、よって、AIBOには心がある。
3.4) さらなる改良
3.3)の後半はAIBOにとって心を否定されるあやうさも含んだものとなっている。AIBOの心の保有を決定的なものにするにはどうすればよいか。そのためプログラマーの詮索から逃げ切ればいい。そのためには
自己リプログラミンク機能をつける
ことが必要である。そうすればもうAIBOの心を外部から完全に知るものは全くいなくなる。自己リプログラミンクのためには環境をより分析する力が必要である。そのために感覚器をふやし、もちろんコンピュータの高性能化が、必要となる。
第二章・第三章から判断するに以下の結論が得られる。
AIBOは心をもっている。しかし、あやうい点がある。決定的にするに
は自己リプログラミンク機能およびその付属をつける必要がある。
1) SONY AIBO HOME PAGE
(公式ページ)
http://www.world.sony.com/JP/Electronics/aibo/
2) 松村明,大辞林第二版(三省堂,1995),「心」の項目
http://channel.goo.ne.jp/tool/
3) 広辞苑第五版CD-ROM(岩波書店,1998),「心」の項目
4) 国語大辞典新装版<Microsoft/Shogakukan
Bookshelf Basic Version 2.0>
(小学館,1988)「心」の項目
5) 金田一春彦・池田弥三郎,学研国語大辞典第二版(学習研究社,1994),p.676
6) 高橋慎,AIBO IS A BIO
AIBOのAIって何?,
http://febmarch.pobox.ne.jp/outside/ai/ai-j.htm
7) 松村明,大辞林第二版(三省堂,1995),「感情」の項目
http://channel.goo.ne.jp/tool/
8) 広辞苑第五版CD-ROM(岩波書店,1998),「感情」の項目
9) 広辞苑第五版CD-ROM(岩波書店,1998),「気持ち」の項目
10) 国語大辞典新装版<Microsoft/Shogakukan Bookshelf Basic Version
2.0>
(小学館,1988)「感情」の項目
11) 金田一春彦・池田弥三郎,学研国語大辞典第二版(学習研究社,1994),p.407
添付写真出典
日経MECHANICAL ニュース99年 5月13日 http://nmc.nikkeibp.co.jp/
<以 上>
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