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▼『もえたん』からの発想、「萌え」の科学、幼形成熟の性選択優位

さて、『もえたん』には、
 
>ぺんくん いや、あいつ[:あーくん]の趣味だ。やつは重度のロリコンだしな。
>      お前を魔法少女に選んだのも、発育状態がめちゃくちゃ
>      悪いからだろ。
>いんく  さいてぇ〜!
 
  渡辺益好、鈴木政浩 : 萌える英単語 もえたん (三才ブックス, 2003) p.47.
 
  キャラクターはこちら参照のこと。 http://www.moetan.jp/character.html 
 
とあります。
 
「萌え」にはいろいろありますが("技術萌え"など)、ここでは発育不良の異性への
愛着について。
 
これを"ぺんくん"はロリコンとよんでおりますが、これは少々違うのではないかと
思います。いんくちゃんが魔法少女に選ばれたのは、高校2年生のときで、すでに
16・17歳に達しています。NHK朝の連続テレビ小説「あぐり」で、主人公あぐり
(役:田中美里)が、夫エイスケ(役:野村萬斎)と結婚・妊娠したとき、あぐりは
女学生でありました。
 
さて、発育不良への愛着ですが、これを科学的に自然なことだと説明するために、
まず対象への"愛着"を、対象が"性選択で優位"であることだと考えます。
 
性選択(性淘汰)とは、異性に好まれるか否か、簡単に言えば、もてる・もてないと
いうことでありますが、子供をもうけるかということまでを考慮した進化論的な
重大テーマです。自然淘汰を勝ち残っても、異性に好かれなければ、自らの
遺伝形質を残すことは困難となります。
 
つぎに"発育不良"を"幼形成熟"(:ネオテニー,Neoteny)であると考えます。幼形成熟
とは、漢字のまま、幼い形のまま成熟することです。顔で言えば、童顔です。
 
発育不良の異性への愛着を不自然でないと考えるには、幼形成熟が性選択において
優位であることが不自然でないことを示す必要があります。
 
実は、ヒトは他の哺乳類よりも幼形成熟が進んでいます。つまり、ヒトの進化は
幼形成熟の程度の進みとともにありました。
 
>ヒトはネオテニー的な動物である。つまり、われわれは自分たちの祖先の幼少時の
>特徴を大人になってももちつづけるように進化してきた。ヒトの大きな脳、小さい
>顎骨、そのほか、体毛の分布のしかたから膣口が腹側にむいていることなどに
>いたる数々の特徴は、幼若期の特色が永久化した結果にほかならない。
 
( スティーヴン・ジェイ・グールド 著 桜町翠軒 * 訳 : パンダの親指 (上) **
 (早川書房, 1996) p.190. より
 
 *  「桜」は、木へんに「嬰」
 **  原著 Stephen Jay Gould, THE PANDA'S THUMB  More Reflections
    in Natural History, 1980  )
 
>その説[:ヒトのネオテニー(幼形成熟)説]によれば、ヒトでは成長速度と成熟が
>遅れているために、他の霊長類では一般的に胚段階や幼形段階で見られる特徴の
>多くが成人にあらわれるようになったのだとされる。そのような特徴すべてが
>自然淘汰によって直接つくられた適応であると見なす必要はない。体毛が頭部、
>わきの下、恥丘部という「胚」的な分布をしていたり、胚発生の過程で生ずる
>膜である処女膜が思春期をすぎても保持されるといった多くの特徴は、たとえば
>学習能力をそなえた動物では遅い成熟が価値をもつといったような、他の理由で
>適応的であるネオテニーがもたらした、それ自体は適応的でない特徴であるかも
>しれないからである。
 
( スティーヴン・ジェイ・グールド 著 渡辺政隆/三中信宏訳 : ニワトリの歯 (下) ***
 (早川書房, 1997) p.270. より
 
 ***  原著 Stephen Jay Gould, HEN'S TEETH AND HORSE'S TOES  Further Reflections
     in Natural History, 1983  )
 
>大型類人猿の乳歯は人間の永久歯と似ているところがある
 
>[ヒトにおいて]頭が脊椎に比較的まっすぐのっている(頭骨と椎骨が接続する穴
>である大後頭孔は、成長とともにその位置が後方にずれていく)、より球形の
>頭骸(...)、そして眉上隆起が弱く...
 
( スティーヴン・ジェイ・グールド 著 新妻昭夫訳 : フラミンゴの微笑 (下) ****
 (早川書房, 2002) pp.58-59. より
 
 ****  原著 Stephen Jay Gould, THE FLAMINGO'S SMILE, 1985  )
 
ヒトが種として幼形成熟が進んだということは、幼形成熟である人のほうが、
そうでない人にくらべ子孫が多いということです。
 
>各個体は自分の生殖上の成功を最大にする---つまり自分の遺伝子が未来の世代に
>発現する機会を多くする---ように奮闘する
 
( スティーヴン・ジェイ・グールド 著 桜町翠軒訳 : パンダの親指 (下)
 (早川書房, 1996) p.176.)
 
のだから、幼形成熟が性選択において優位となるのです。
 
以上より、発育不良の異性への愛着という「萌え」が自然なことだと科学的に
説明できたと思います。