無窮ナレッジ

▼芥川龍之介「猿」

http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/139.html 
>私が、遠洋航海をすませて、やつと半玉(はんぎよく)(軍艦では、候補生の
>事をかう云ふのです)の年期も終らうと云ふ時でした。
 
...
 
>翌日、浦賀の海軍監獄へ送られました。これは、あんまりお話したくない事
>ですが、あすこでは、囚人に、よく「弾丸運び」と云ふ事をやらせるのです。
>八尺程の距離を置いた台から台へ、五貫目ばかりの鉄の丸(たま)を、繰返へし
>繰返へし、置き換へさせるのですが、何が苦しいと云つて、あの位、囚人に
>苦しいものはありますまい。いつか、拝借したドストエフスキイの「死人の家」
>の中にも、「甲のバケツから、乙のバケツへ水をあけて、その水を又、甲の
>バケツへあけると云ふやうに、無用な仕事を何度となく反覆させると、その囚人
>は必自殺する。」――こんな事が、書いてあつたかと思ひます。それを、実際、
>あすこの囚人はやつてゐるのですから、自殺をするものゝないのが、
>寧(むしろ)、不思議な位でせう。
 
...
 
>猿は懲罰をゆるされても、人間はゆるされませんから。