米中首脳会談に想起する、覇権条項と海洋の管制

遠い米中「新時代」 首脳会談、協調の裏で駆け引き:日本経済新聞 (2013/6/9 0:45)

7日のオバマ米大統領と中国の習近平国家主席による初の米中首脳会談では、今後数年間をにらんで新たな協調を目指すことで一致した。
(中略)
 「大国同士の新たな関係のモデルをつくるべきだ」。習主席は7日の首脳会談でこのせりふを何度も繰り返した。

私は、2つのことを想起した。(1)覇権条項と、(2)海洋の管制である。

(1) 覇権条項

「覇権条項」とは、日中共同声明(1972)の七項、あるいは日中平和友好条約(1978)の第二条を指す。

日中共同声明

七 日中両国間の国交正常化は、第三国に対するものではない。両国のいずれも、アジア・太平洋地域において覇権を求めるべきではなく、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国あるいは国の集団による試みにも反対する。

日中平和友好条約

第二条 両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。

なお、ここにいう「覇権を確立しようとする」国としては、当時、ソビエト連邦が想定されていた。

(2) 海洋の管制
――「海洋の管制」(Control of the Sea) あるいは、その発展として「公共財の管制」(Command of the Commons)

「海洋の管制」とは、

「(所要の重要)海洋を(必ずしも長期持続的ではないが)自ら望む時に自ら望む方法で自由に利用(Assured Access)し、同時に敵にはそれを許さない(Area Denial)」 (* p.74.)

ことである。

「海洋の管制」の概念は、『海上権力史論』で知られるマハン(Alfred Thayer Mahan)が、その創案者だと言われる(* p.74.)。マハンは、自叙伝に「海洋の管制」は「20年間私の全著作の核心となった」(* p.73.)と記している。

 * : 大熊 康之 : 戦略・ドクトリン統合防衛革命―マハンからセブロウスキーまで米軍事革命思想家のアプローチに学ぶ (かや書房, 2011)

マサチューセッツ工科大学(MIT)の政治学教授 ポーザン(Barry Posen) は、2003年に発表した論文「Command of the Commons」において、

[「管制」とは、] 米国が、海洋、宇宙及び空中[:「公共財」]から他国よりも圧倒的に強力な軍事的利用を行い、一旦緩急ある場合、他国に対してそれらの利用拒否の脅迫を高い信頼度をもって行うことを可能とし、そして仮に他国が米国の意志を拒否すれば、その国は公共財の軍事的争奪に(極めて長期にわたって再挑戦が不可能となる形で)敗北する、ことを意味する (* p.82.)

旨を記した。