気象を捉える考え方「天地人」

2010年に、気象予報士の試験勉強を総括するために書いたメモを公開できていなかったので、今、文章にして公開する。

気象予報士の実技試験の問題を分類すると、以下になる。これは、そのまま気象を理解・予測する際の考え方のフレームワークになるだろう:

 ● 天(客観)
 ● 天(主観)
 ● 地
 ● 人

● 天(客観)

天気図を読み取る:

気圧配置・気温分布・風向風速をみて、特徴的な現象(高気圧・低気圧・前線・収束/発散 など)を明示する。→そこから、現象の推測や予測を行う。

● 天(主観)

気象衛星画像を読み取る:

衛星雲画像をみて、雲の種類や特徴的な形態(シーラスストリーク、バルジ、テーパリングクラウドなど)を同定する。→そこから、現象の推測や予測を行う。

● 地

地形効果を考慮する:

地形性降水、フェーン現象、雲が山脈を乗り越えられるか、などを考慮する。→そこから、現象の推測や予測を行う。

● 人

気象専門家が作成した図表を読み取る(沿岸波浪図の読み取り、天気図上の記号の読み取りなど)。

他の人に伝達可能な形態(文章)に、現象や現象の予測を表現する。

筋状雲の離岸距離が小さいほど、寒気が強い

筋状雲の大陸からの離岸距離が小さいほど、寒気(移流)が強い。

理由:
シベリア気団は低温・乾燥している。この気団が、日本海を渡る時に、シベリア気団に比べて暖かな日本海から顕熱を供給され、また供給された水蒸気が凝縮して潜熱を発することにより、大気下層が温まり、大気が不安定になる。

「寒気が強いほど水蒸気の蒸発が盛んで大気の安定度を悪くして上昇流が強く、寒気移流が…強いほど大陸沿岸から雲が発生する領域までの距離(離岸距離といいます)が小さくなります」(気象予報士試験対策講座=編著: 資格試験らくらく合格塾 気象予報士実技試験徹底攻略問題集 (ナツメ社, 2004) 別冊 p.72.)。

補足:
筋状雲・帯状雲については、こちらを参考のこと

工業における数値流体力学のアウトプット

数値流体力学では、ミクロ(瞬間・局所)の状態をアウトプットできる。

しかし、一般に求められることは、マクロの改善に供することである。

工業的には、ものの破壊につながるような現象が局所的に生じない限り *、ミクロだけを知る実利はない。

マクロにあたる熱輸送総量・化学反応による生成物総量などのアウトプットにつなげることが必要である。

  * 気象分野では、ものの破壊につながるような現象が局所的に起こりやすい(局所的な暴風・豪雨)ため、ミクロを知ることの需要が高い。

梅雨前線の北、およそ200km圏が雨の範囲

石原 良純 : 石原良純のこんなに楽しい気象予報士 (小学館文庫, 2001) p.202.

[梅雨]前線の北、およそ二〇〇キロ圏が雨の範囲といわれている。

ここで 200km とは、どのような距離かというと、

・緯度 2度 (= 約 220 km )

・高知 (:室戸岬と足摺岬の間の弓なりの四国太平洋岸の最も奥まったところ)から、真っ直ぐ北に、鳥取県の日本海岸まで (= 約 220 km )

・和歌山県潮岬から、真っ直ぐ北に、若狭湾まで (= 約 240 km )

気象学と鎌倉仏教

気象学(気候学を除く)の特徴は、その成果が固定されず、大衆の個々逐次の行動によって生まれることである。

気象学の知見を信じる大衆の個人個人が逐次、自ら行動する、あるいは自ら行動を抑制することによって、不利益をもたらす気象をやり過ごすことができる。しかし、気象学は、不利益な気象そのものを無くしたり、無効化することはできない。

たとえば、気象学によって、午後から雨が降ると予め分かり、子供との遊園地行きを取りやめることができる。この時、雨に濡れることによる損害は防げるが、子供は満たされない。百年後の子供も、おそらく同様の満たされない体験をするだろう。

雨でも影響が全くない屋内遊園地をつくるならば、百年後の子供は、同様の満たされない体験をすることはないだろう。屋内遊園地という成果は、気象学の成果ではない。

気象学は、気候学の下位につくことにより、成果を固定できる。

気候学は、その成果が固定される。たとえば、将来の気候を一定範囲に収めるために、化石エネルギーの使用量を数字で表わした社会設計という形で、成果は固定される。

気象学は、気候学のパラメタリゼーションの高度化手法、あるいは、サブシステムとして働き、気候学の固定される成果への貢献を成果とすることができる。

一方で、固定されない、大衆の個々逐次の行動によって生まれる成果の存在を、大いに価値あるものとして考えることもできる。

これは、貴族が大衆を救うのではない、大衆自らが救いをもとめる鎌倉仏教のような学術である。

鎌倉仏教型の学術も、人類の力になる。そして、人類の「知の力」のうち、「鎌倉仏教」の強化が今日、疎かになっていると、私は考える。

ゲーテの雲の詩

橋本 毅彦 : 描かれた技術 科学のかたち―サイエンス・イコノロジーの世界 (東京大学出版会, 2008) pp.163-164.

ゲーテは、ハワード [:ルーク・ハワード Luke Howard (1772-1864)]の雲の分類論とその変容の理論に注目した。一八二〇年に「ハワードによる雲のかたち」という論文を著し、そこでハワードの雲の分類論を解説し、さらに彼を讃える詩を寄せた。…

層雲

鏡のごとき水面より / 靄[もや]の絨毯湧き上がり
続いて月も上りきて / 霊が霊になるごとく
自然よ、そのときわれらみな / 喜び急ぐ子供なり
靄は山へと立ち登り / 筋広々と重なりて
中位の雲は滞り / 雨にも空気にもなれり

積雲

そしてさらなる高空へ / 空気豊かに集められ
雲高々と積み上がり / 力強くもそびえ立ち
かくて恐れつ体験す / 上轟きて下震う

巻雲

さらに気高き一撃の / 天より軽く放たれる
群れ小片に解けほどけ / 子羊ごとく集まれる
下より流れ生まれきて / 父の手と膝ぬらしゆく

雨雲

高々積み上げられしもの / 大地の力に引かれおり
激しき雷雨に姿変え / 大群となり散りゆくは
能動受動の地の定め! / まなざし高く登りゆき
言葉降りて記される / 心は空に漂えり

羊の群れ「農夫の少年、冬」

橋本 毅彦 : 描かれた技術 科学のかたち―サイエンス・イコノロジーの世界 (東京大学出版会, 2008) p.160.

羊の群れのごとき巻積雲を描写したロバート・ブルームフィールドという詩人の詩「農夫の少年、冬」を、ハワード [:ルーク・ハワード Luke Howard (1772-1864)]は引用する。

漂う雲のその上の / (さらに彼方は静穏で)
雲の山並み外れ雲 / 雪の白さと端正さ
東西広く限りなく / 動かぬ群れの美しさ
驚く胸に響く名は / 永久に偉大な羊飼い