ふく射を用いた冷房機とエアコンの効率比較

 

戻る

 

 

1 はじめに

 

現在、一般に普及している冷房機は「エアコン」(air conditioner: 空調機)と呼ばれることから分かるように、室内空気の温度を下げることにより、その部屋の中にいるユーザに涼しさを提供している。一方、講義では、ふく射を原理とした冷房機のアイデアが触れられた。そこで、本レポートでは、ふく射を用いた冷房機とエアコンについて、効率の比較をおこなった。なお、ここでいう効率とは、(人体から奪われる熱量)/(冷房機が吸収する熱量) である。

 

2 本レポートにおいて考える系

 

本レポートにおいて考える系は、冷房機(室内機)によって冷やされる部屋の中央に、椅子に腰掛けた1人の人間がいる系である(1)

エアコンによって部屋を冷やす場合(1(a))は、冷風の風速をゼロであるとする。

ふく射を用いた冷房機は、部屋の天井をはがし、天井の代わりに冷却面が取り付けられている(1(b))。これは、現実のふく射を用いた冷房機1)2)と同じである。しかし、本レポートでは、冷却面からの冷風の吹き出しはないとする。また、床から測った、天井のあった高さと冷却面の高さは同じである。冷却面の面積SPは、7.29m2 ( =2.7m×2.7m)とし、全波長放射率εP=1とする。冷却面の部屋側は、赤外線を完全に透過する素材でつくられたケースで包まれ、ケースと冷却面の間は真空である。よって、冷却面は部屋と伝導伝熱・対流伝熱をしない。また、冷却面の部屋とは反対側は、光沢を持つ素材と真空断熱により、外部と全く伝熱しないとする。

各種値は次のとおりである。

 

1: 人体について

表面積 Sm

1.8 m2

表面温度 Tm

36 = 309.15 K

表面の全波長放射率 εm

0.98 [-] 3)

 

2: 部屋について

部屋の大きさ

4.5 = 2.7m×2.7m=7.29m2

部屋の高さ

2.5 m

部屋の内壁の面積 Sw

34.3m2(ふく射を用いた冷房機の場合),
41.6m2(
エアコンの場合)

内壁後ろの断熱材の厚さ lwo

0.1 m

断熱材の熱伝達率 λwo

0.026 W/(Km) [硬質ウレタンフォーム]4)

内壁の全波長放射率εw

0.9 [-] 5)

 

なお、内壁の厚さは0mとする。断熱材の外表面積SoSwと同じ(So =Sw)とみなす。

外気温と断熱材外側温度Toは、30 = 303.15 K とする。

 

3 定常状態における効率比較

 

3.1 エアコン

 

 単位時間あたり人体から室内空気に対流伝熱によって伝わる熱量は、

   (1)

と表せる。ここで、hAは、空気と固体面間の熱伝達率である。自然対流を考えて、
hA=3.49 [W/(m2
K)] 6)とする。

 単位時間あたり人体から内壁へふく射によって伝わる熱量は、

   (2)

である。

 単位時間あたり内壁から断熱材を経て外部に伝わる熱量は、

   (3) 、

単位時間あたり内壁から室内空気に対流伝熱によって伝わる熱量は、

   (4)

と表せる。

 定常状態なので、Tw=const.だから、内壁の単位時間あたりの熱収支に関して、

 [W]   (5)

となるTwを探し(実際は(5)式左辺の絶対値が最小となるTw0.1K刻みで探した)、その上で、単位時間あたり人体から奪われる熱量、

と、単位時間あたりエアコンが吸収する熱量、

を求める。

 

3.2 ふく射を用いた冷房機

 

 ふく射を用いた冷房機によって冷やされる系の、部屋の内壁(w)、人体表面(m)、冷房機の冷却面(P)、各々の間の形態係数Fij (i,j=w,m,P)を求める。

 形態係数の表7)より、FmP=0.101である。また、形態係数の表7)8)9)を用いることにより、Fmw=0.795が求められる。また、幾何学的にFPP=0 である。

 そして、二者の表面積と形態係数の関係 SiFij =SjFjiと、 を用いて、全ての形態係数が求められる。表3にその結果を示す。

 

3: 内壁・人体・冷却面間の形態係数Fij [-]

ij

w

m

P

内壁 w

0.751

0.0417

0.207

人体 m

0.795

0.104

0.101

冷却面 P

0.975

0.0249

0

 

ここから、内壁、人体、冷却面のふく射による内部熱量の単位時間あたりの減少量(それぞれQw,rd,Qm,rd,QP,rd)が求められる。但し、QP,rd は、QP,rd= -( Qw,rd+Qm,rd ) から求める。

 

3.2.1 部屋が密閉されていない場合

 

 ふく射を用いた冷房機は、室内空気を冷やしそれによって部屋内部の人体から熱を奪うわけではないので、まず、室内が密閉されていない場合を考える。即ち、室内空気と外部空気は容易に入れ替わり、TA=Toである。なお、開口部の面積は考えない。

 QmA,cvQwo,cdQwA,cvは式(1)(3)(4)から求められる。

 定常状態なので、Tw=const.だから、内壁の単位時間あたりの熱収支に関して、

 [W]   (6)

となるTwを探し(実際は(6)式左辺の絶対値が最小となるTw0.1K刻みで探した)、その上で、単位時間あたり人体から奪われる熱量、

と、単位時間あたりふく射を用いた冷房機が吸収する熱量、を求める。

 

3.2.2 部屋が密閉されていない場合の結果と考察

 

 計算結果を、エアコンの場合と比較して、図2に示す。

 図2より、冷房機による単位時間あたりの吸熱量が100W以上において、エアコンの方が、ふく射を用いた冷房機よりも効率が高いことが分かる。

これは、ふく射を用いた冷房機により冷却される系においては、部屋が密閉されていないために、内壁が室内空気から熱を吸収しても、その分、外部空気から室内空気へ熱が供給されるためである。

 よって、ふく射を用いた冷房機を使用する際にも、エアコンと同様に、部屋を密閉するほうが適切であることが分かる。

 なお、ふく射を用いた冷房機により冷却される系において、冷房機による単位時間あたりの吸熱量が100W以下において、(人体から奪われる熱量)/(冷房機が吸収する熱量)>1となっているのは、部屋が密閉されていないために、人体(Tm=309.15[K])から室内空気(TA=303.15[K])に対流伝熱によって伝わった熱が外部空気(To=303.15[K])に拡散しているためである。

 

3.2.3 部屋が密閉されている場合

 

 部屋が密閉されている場合は、定常状態より、Tw=const.かつT A=const.でなければならない。

 よって、式(6)かつ、室内空気の単位時間あたりの熱収支に関して、

 [W]   (7)

が成り立つ(Tw,TA)の組み合わせを探し(実際は(6)(7)式左辺の絶対値がともに10W未満になる(Tw,TA)をともに0.1K刻みで探した)、部屋が密閉されていない場合と同様に、単位時間あたり人体から奪われる熱量と単位時間あたりふく射を用いた冷房機が吸収する熱量を求める。

 

 

3.2.4 部屋が密閉されている場合の結果と考察

 

計算結果を、エアコンの場合と比較して、図3に示す。

 図3より、空気が密閉された部屋において、エアコンとふく射を用いた冷房機の効率はほぼ同じである。

 冷房機による単位時間あたりの吸熱量が大きくなると、ふく射を用いた冷房機の効率はエアコンより下がる。これは、ふく射を用いた冷房機で冷房する場合のTwがエアコンで冷房する場合のTw よりも低いために、前者の場合において後者の場合よりも、多くの外部の熱を内壁が吸収しているためであると考えられる。

 

4 非定常状態における効率比較

 

 冷房機の運転を開始して定常状態に達するまでの非定常状態における効率について考える。

エアコンによる冷房では、熱容量の大きな室内空気を冷やさないと対流伝熱を促進することが出来ず、また、室内空気を冷やしてからでないと、内壁の温度が下がらずふく射伝熱を促進することが出来ない。

 ふく射を用いた冷房機による冷房では、冷却面の熱容量が小さいため、すぐにふく射によって人体から熱を奪うことが出来る。

 よって、冷房機の運転を開始して定常状態に達するまでの間は、ふく射を用いた冷房機のほうが、エアコンよりも効率が高いと考えられる。

 

5 まとめ

 

以上をまとめると、つぎのとおりである。

l         ふく射を用いた冷房機を使用する際にもエアコン同様、部屋を密閉するほうが効率が高い。

l         ふく射を用いた冷房機は、エアコンに比べて、非定常状態では効率が高いが、定常状態では効率がほぼ同じ、あるいは定常状態において多くの冷却出力を必要とするときには効率がやや劣る。よって、ふく射を用いた冷房機は、頻繁に、冷房のオンオフや、室内空気の入れ替えがある場合に、エアコンより効率が高い。


 

参考文献

 

1)      http://www.hibiya-eng.co.jp/tech/kucho06.html , 2004711日確認

2)      http://www.toda.co.jp/kenchiku/tcdb/14.html , 2004711日確認

3)      http://www.techno-qanda.net/dsweb/Get/Document-9912/%E6%94%BE%E5%B0%84%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E8%A8%88.pdf , 2004711日確認

4)      http://www.mag.co.jp/gw/gw3.php , 2004711日確認

5)      http://www.arch.t-kougei.ac.jp/ito/pdf/13-2003.pdf , 2004711日確認

6)      http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1996/00271/contents/104.htm , 2004711日確認

7)      http://www.me.utexas.edu/~howell/sectionc/C-158.html , 2004711日確認

8)      http://www.me.utexas.edu/~howell/sectionc/C-156.html , 2004711日確認

9)      http://www.me.utexas.edu/~howell/sectionc/C-157.html , 2004711日確認